高齢者におけるビタミンD低値はせん妄発症の予測因子になりうる

ビタミンD

 せん妄は、高齢者の入院でよく見られる症状です。ビタミンD低値はせん妄リスクの増加と関連している可能性があります。今回紹介する論文で、筆者は遺伝学的解析を含めて、血中ビタミンD値がせん妄の予測に有用であるかを検討しました。

J Am Geriatr Soc. 2020 Oct 5. doi: 10.1111/jgs.16853

要旨

背景/目的:せん妄は入院高齢者によくみられる症状です。ビタミンD低値はせん妄リスクの増加と関連している可能性があるため、本研究では遺伝学的解析を含めて、血中ビタミンD値のせん妄予測を明らかにすることを目的としました。

デザイン:前向きコホート研究。

設定:地域密着型コホート研究。英国22都市の成人を対象としたコミュニティベースのコホート研究(英国バイオバンク)。

参加者:調査開始から14年後までの、60歳以上の病院入院患者データを追跡調査しました(n=351,320)。

方法:調査開始時に、血清ビタミンD(25-OH-D)レベルを測定しました。ビタミンD欠乏症と病院で診断されたせん妄患者の関連因子について、年齢、性、評価月、評価施設、および民族を調整してハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を検出するために、生存時間(time-to-event)解析法を使用しました。ビタミン D とせん妄リスクをさらに解析するために、ヨーロッパの参加者を対象にメンデルランダム化遺伝学的解析を行いました。

結果:計3,634人(1.03%)の参加者で、入院中にせん妄エピソードを少なくとも1回経験しました。ビタミンD欠乏症(<25nmol/L)はせん妄の発生を強く予測しました(HR = 2.49;95%CI = 2.24-2.76)。またビタミンD低下群(25-50nmol/L)でもせん妄発症リスクが増加しました(HR = 1.38;95%CI = 1.28-1.49;P = 4*10-18)。この結果は、カルシウム値、入院中に診断された骨折、認知症、およびその他の関連因子とは無関係でした。遺伝子解析では、ビタミンD高値のバリアントを有する参加者で、せん妄の診断を受ける割合が低下していました(HR = 0.80:0.73-0.87)。

結論:ビタミンD値が低下すると、病院で診断されるせん妄のリスクが増加することが予測され、遺伝学的解析が本結果を支持しました。ビタミンDの測定は容易であり、安価で治療可能です。今回の結果を検証するため更なる介入試験が必要です。

背景

 せん妄は、不注意、思考の乱れ、または意識レベルの変化を伴う急性の変動性認知変化であり、入院している高齢者によくみられます。せん妄は予防可能な場合もありますが、臨床現場では認識されていないことが多く、成人の急性入院患者の23%に影響を与え、経済的および社会的コストも大きい状態です。せん妄の原因は、認知症、高齢などの基礎因子と入院・手術・麻酔・感染症などの急性事象による誘発因子の両方が関与する多因子性のものであり、炎症・多剤服用・便秘・カテーテル治療・痛み・脳卒中・環境変化なども関与しています。

 せん妄患者・認知症患者とビタミンD値の関係は近年注目され、メタ解析でビタミンD値と認知機能低下との間に相関関係があることが示されています。しかしこれまでの研究のほとんどは観察研究で、ビタミンの補給による介入研究で関連性は再現されませんでした。メンデル無作為化法以前の遺伝学的研究では、英国(UK)バイオバンクの入院患者の記録から、ビタミンD低値とせん妄発生リスクの高さに因果関係があるというエビデンスを発見しました。しかし、当時血清ビタミンD値は利用できませんでした。今回、血清ビタミンD値・遺伝情報とせん妄の関係について、更に4年間入院患者の追跡調査を行いました。本研究では、大規模な地域ボランティアを対象に、血清ビタミンD値と病院で診断されたせん妄リスクとの関連を解析しました。

方法

 英国バイオバンクでは、2006年から2010年の間に英国全土から40歳から70歳までの地域密着型ボランティア503,325人を募集しました。ベースライン評価時に収集されたデータには、人口統計学・健康・およびライフスタイルに関する広範な質問票が含まれていました。

 ビタミンDは血清25-ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)を測定しました。ベースライン時、448,376人のデータを入手できました。ビタミンD値の共変量の可能性について、年齢・性別・自己申告の民族(白人、アジア人、黒人、その他、混合、行方不明の6つのグループに分類)・評価月(シーズン)・評価施設で探索的分析を行いました。すべての解析において、これらの共変量を調整しました。

 英国国立保健医療技術研究所(NICE)のガイドラインに従って、ビタミンD値を3つのグループに分類しました。

  • ビタミンD欠乏群:血清25[OH]D< 25nmol/L
  • ビタミンD低値群:血清25(OH)D 25~50nmol/L
  • ビタミンD正常群:血清25(OH)D>50nmol/L

  入院記録からの疾患認のフォローアップは、評価から14年後まで利用可能でした。351,320人の参加者のうち、合計270,299人(76.9%)がベースライン評価後に少なくとも1回の入院を経験していました。60歳以前で診断されたせん妄はほとんどみられませんでした (病院でせん妄と診断された3,634名のうち、60歳までに発生したのは44例のみ)。若年者のせん妄は病因が異なる可能性があるため、60歳に達していない参加者は除外されました。

 メンデル無作為化(MR)解析は、リスク因子(ビタミンD)とアウトカム(せん妄)との間に因果関係が共有されているかどうかを判断するために用いれました。ビタミンDを増加させる遺伝子変異を多く持つ個体でせん妄リスクの関係が高い場合、両者の因果関係を支持する経路であると判断しました。

結果

 英国バイオバンクの参加者351,320人を分析しました。3,634人(1.0%)の参加者で、入院中せん妄と診断され、ビタミンDとの関連性に有意差が認められました。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、年齢、性別、評価施設、評価月、自己申告の民族を調整し、血清ビタミンD(nmol/L)がせん妄診断の発生に及ぼす影響を解析しました。ベースライン評価時にビタミンDが欠乏していた参加者(25nmol/L未満)は、Cox比例ハザード回帰モデルにおいて、正常群(≥50nmol/L)と比較して、せん妄発生のリスクが優位に高い結果でした(HR=2.49; CI=2.25-2.76)。またビタミンD低値群も同じくリスクが高い結果でした(HR = 1.38;95%CI =1.28–1.49)。

 性別による層別解析では、ビタミンD欠乏のせん妄リスクへの影響は、女性と男性では同様の結果で、性別による有意差は認められませんでした(P > 0.05、男性164,288人;HR = 2.51;95%CI = 2.19-2.88;女性187,032人;HR = 2.50;95%CI = 2.14-2.92)。

 今回、ビタミンDの基準値の低い民族が含まれていることが判明しているため、白人と自己申告した335,517人(96%)についてのみ分析を行いました。

 複数の追加調整と除外を行った後も結果は一貫していました(学歴・喫煙・ビタミンDサプリメント服用・骨折・慢性腎臓病(CKD)・認知症・肝臓病・パーキンソン病)。年齢・性・評価施設・評価月・自己申告の民族・喫煙状況・教育歴・カルシウム値・フレイルインデックスを調整した単一分析を行い、ビタミンDサプリメントを服用している参加者・病院で診断されたCKD・骨折・認知症・肝臓病およびパーキンソン病を有する参加者を除外しました。ビタミンD欠乏とせん妄発生との関連は、Cox比例ハザード回帰モデルでは、わずかに減衰したものの、同様の結果でした(解析対象 n = 203,490;HR = 2.33;95%CI = 1.88-2.89)。ビタミンD低下群も同様にリスクが高い結果でした(HR = 1.31;95%CI = 1.12-1.54)。

 英国バイオバンク参加者326,558人を対象に、各参加者が保有するビタミンD増加変異体の数の遺伝的リスクスコア(GRS)が算出されました。ビタミンD評価時の年齢・性別・評価施設・評価月および民族を調整した線形回帰モデルにおいて、GRSは血清ビタミンD(nmol/L)と強く関連していました(GRS係数=3.37;95%CI=3.30-3.44)。

 MR解析では、ビタミンD高値の経路がせん妄の可能性を低下させるという結果を発見しました。計測されたlog(ビタミンD)あたりのせん妄のHRは0.799 (0.735-0.869)でした。

考察

 英国バイオバンク参加者351,320人を対象としたこの大規模前向き研究では、14年間の追跡調査終了時までに60歳以上の参加者を対象に、ビタミンD値が病院で診断されたせん妄の発症リスク増加を予測していました。遺伝的解析結果でも因果関係の経路を共有していることが判明しました。ビタミンD欠乏群(<25nmol/L)では、正常群(>50nmol/L)に比べてせん妄のリスクが最も高い結果でした。ビタミンD低下群(25-50nmol/L)もせん妄のリスクが増加しましたが、影響は小さく、用量反応関係が示唆されました。

 ビタミンDとせん妄との関係は、神経組織への酸化的障害を防ぐ神経保護的な役割や、神経伝達物質の合成に影響を与えるという仮説が立てられています。ラットモデルの研究では、ビタミンDが酸化ストレスから神経細胞を保護する効果があることが示され、神経細胞の成長と保護におけるビタミンDの役割が示されています。ビタミンD3受容体は脳神経細胞だけでなく、脊髄や末梢神経系にも存在しています。また、アルツハイマー病などの神経変性疾患の影響を受ける海馬でもビタミン D 受容体が発見されています 。また、ビタミンDは全身の炎症に影響を与えると考えられており、加齢に伴う合併症やフレイル、その他せん妄の病態に影響を与えると考えられています。今回の報告は、血清ビタミンD値と遺伝情報を組み合わせることで、過去の研究結果を前進させました。ビタミンDに関連する遺伝的変異はビタミンDの合成や代謝に影響を与えることが知られており、ビタミンDとせん妄との直接的な関係が示唆されています。

 驚くべきことに、今回測定されたビタミンD値はせん妄診断の14年前なので、せん妄の予測能が高く、ビタミンDが優れたバイオマーカーであることが示されました。

 考慮すべきものとして、認知症とビタミンD欠乏の間の関係は、認知機能低下と太陽への露出低下に関連する虚弱関連マーカーである可能性が示唆されていることです。筆者らは、変動する日光曝露の影響を軽減するための指標として、評価の季節と月、および調査施設を調整しました。フレイルはせん妄のリスクが高いですが、ビタミンD欠乏とせん妄との関連は、ベースラインのフレイルインデックスの調整でも変わりませんでした。ビタミンD欠乏は、せん妄の発生率を増加させる可能性のある他の疾患と関連している可能性があります。筆者らは、病院で診断された骨折、CKD、肝臓病を除外しても、この関連性は変化がないことを発見しました。従来の因子の影響を受けにくい遺伝学的解析を含めた本研究の結果を総合すると、ビタミンD欠乏がせん妄の発症に関してより中心的な役割を果たしている可能性が示唆されました。

 結論として、本研究では、ビタミン D 低値が偶せん妄と関連しており、因果関係を支持する遺伝的証拠があることを示しました。ビタミンD欠乏症の治療は、低コストで副作用の少ない簡単な方法です。本研究は、せん妄予防に焦点を当てて、ビタミンD補給と認知の関係を評価する介入試験をさらに実施するための根拠を提供するものです。今回の結果は、高齢者がせん妄のリスクが大幅に増加する入院が必要になった場合に備えて、かかりつけ医の診察時にビタミンD値のスクリーニングを日常的に行うべきであることを示唆しています。

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yshima脳神経内科医
認知症専門医の資格を持つ脳神経内科医です。 神経内科専門医・指導医、総合内科専門医・指導医、認知症サポート医。 M.D., Ph.D.