専門医の資格は必要か?メリットとデメリットを解説します

新専門医制度画像

 新専門医制度の開始により、これまで自己研鑽の意味合いが強かった専門医の状況が変わりつつあります。専門医を取得するメリットは正直なところ断言するほど大きいものはありませんが、将来専門医の教育施設基準を達成するために専門医をリクルートする医療施設が増加するかもしれません。一方、専門医資格を維持するために今まで以上に学会参加や教育などで金銭的な負担や時間的束縛が増加するかもしれません。このことから本来の医師の業務と専門医制度が対立することがないよう注意していく必要があります。本記事では専門医取得のメリットとデメリットを解説します。

新専門医制度に移行した経緯

 日本では1962年に麻酔科学会主導で初めての専門医制度が始まりました。その後、日本医学放射線学会、日本脳神経外科学会が続き、様々な専門医制度が発足されましたが、その運営は学会ごとにバラバラで100以上に細分化されました。2018年に「専門医の質を高め、良質な医療が提供されること」を目標に新専門医制度が始まりました。運営が学会ではなく日本専門医機構である点が大きく異なります。基本的に医師は医師免許証と保険登録票があれば診療は可能です。専門医は必ずしも必要ではなく自己研鑽の場ぐらいの認識を持つ医師が多い状況でした。今後、専門医がどのような立ち位置に行き着くのか注目されます。

専門医取得のメリット

 専門医取得のメリットは現時点で、医療施設が採用条件に専門医資格を有していることとしている場合、就職に有利である程度です。ただ新専門医制度に移行し、この傾向がより強くなる可能性があります。医療施設が専門医の教育施設に認定されれば、専門医を目指す医師がその医療施設を選択し、採用医師数の増加に期待できます。経営側としては専門医資格のある医師と専門医資格のない医師で能力がそれほど変わらなければ、資格のある医師を採用する心理が働くでしょう。したがって大学病院や大病院は教育施設の条件を維持するために専門医資格のある医師を優先して採用する傾向が強くなると考えます。ただしこれはスタッフ(助教以上、部長クラス)を目指している医師が対象になります。教育施設基準を満たしていない中小医療施設、診療所で勤務する、非常勤医師として医療施設を移り渡っていく、役職に興味なく診療だけできれば良いと考えている医師は必須ではないと考えます。まとめると大学病院や大病院での勤務を続け、将来役職のある地位を考えている医師は専門医資格を取得するのが望ましいです。

 今後専門医取得により期待されるメリットは診療報酬加算と給与の増額です。残念ながら現在は専門医を取得しても、国民皆保険制度下での医師技術料の制限により一部の例外を除いて診療報酬加算に結びついていません。また医療施設が個々で専門医取得医師に給与の増額をしていることはありますが明確な基準はありません。せっかく取得しても法的裏付けに基づいていないため実益に見合っていない批判がありました。今回の新専門医制度開始により診療報酬と給与に何らかの上乗せがあればメリットとして大きく機能する可能性があります。

専門医取得のデメリット

 専門医取得によるデメリットは資格維持に相当額のお金と時間がとられることです。総合内科専門医を例にとると、日本内科学会年会費9000円、総合内科専門医試験受験料 30000円、総合内科専門医更新料 5000円(5年ごと)、内科学会総会参加費 10000円(地方会参加費 1000円)、セルフトレーニング問題 2000-3000円(認定期間内に最低1回参加必要)が必要になります。更新時に必要な単位数は5年間で75単位です。日本内科学会総会への参加は15単位ですので総会に毎年参加すれば基準を満たすことになります。日本内科学会は大規模なためかかる費用は比較的少ない方です。参考までに他学会の年会費は、日本神経学会16000円、日本脳卒中学会 12000円、日本認知症学会 6000円、日本老年医学会 12000円になります。専門医更新で必要な単位取得のために各学会の学術大会への参加はほぼ必須になりますので、それぞれの参加費を加えると、1年間で必要とする費用はかなりの額になります。専門医資格をとればとるほどこれらの費用と時間が加算されていきます。専門医をとるまでも大変ですが、その後の資格維持にもお金と時間がかかることを知っておく必要があります。

 次に専門医維持の大変さの割に目に見えるメリットが少ないことです。専門医資格の広告は2002年より可能になっています(すべての専門医ではありません)。しかしそのことがあまり周知されていないため、箔付け程度の認識にしかなっていません。「メリット」の後半にも記載していますが、現時点で診療報酬や給与の優遇に繋がらず、実効性が低くなっています。

専門医制度の課題

 現在、専門医を育成するシステムが統一されていません。研修要項はありますが、具体的な指導内容は各施設に任されています。そのため施設間で温度差が大きいことと、今後資格条件が厳しくなると指導医資格を持つ専門医への負担が大きくなる懸念があります。少人数の施設では、日々の診療に加えて専門医希望者への教育が必要になりますが、負担増加に対するサポートがありません。更に教育施設更新時に疾患数、検査数、業績などの報告が求められ、書類作製の労力が加わります。専門医資格を持つことで果たす責任や義務が多くなり、このことが実益に繋がらないため専門医取得を忌避する医師が出てくることは想定する必要があるでしょう。

 専門医を自分のスキルアップや知識維持のために取得した医師が多いと思います。この前向きな姿勢が新専門医制度のノルマや義務を課されることで縮小しないことを願います。そして専門医取得を希望している非常勤医師や年配の医師、子育て中の医師でも挑戦できる環境づくりが大事だと思います。せっかく興味のある専門医でも教育施設が近くにない、あったとしても容易に勤務地を変えられない、出産・育児・介護など家庭環境の問題で取得が困難なケースがあります。今後、様々な事情を抱える専門医希望者がどこに所属しても専門医を目指せるような柔軟性のある制度づくりが必要と考えます。

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