高齢者・認知症者に使いやすい睡眠薬(転倒リスクの観点から)

睡眠薬

 入院高齢者の転倒および骨折防止は重要な課題です。その中で睡眠薬は転倒リスクの大きな原因の一つになっています。今回、睡眠薬と転倒・骨折発生の関係を報告した論文と「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を参考に、高齢者・認知症の人に使いやすい睡眠薬について解説します。

PLoS One. 2015 Jun 10;10(6): e0129366. doi: 10.1371/journal.pone.0129366. eCollection 2015.

転倒リスク因子

 転倒リスク因子は以下の通りです。

  1. 高齢
  2. 歩行障害・バランス障害を起こす疾患:脳血管障害、パーキンソン病、フレイルなど
  3. 認知機能障害・精神疾患:認知症、せん妄
  4. 環境要因:段差、滑りやすい床・履物、固定していない敷物・物入れ
  5. 薬剤:睡眠薬、抗精神病薬、抗うつ薬など

 これらの転倒リスク因子は複雑に関係しあっています。入院患者個々で1~3の転倒リスクが高いかを評価し、その後環境因と薬剤で改善の余地がないかを検討します。

入院認知症患者における睡眠薬と骨折の関係

 2015年のPLos Oneで入院認知症患者における睡眠薬と骨折の関係を報告があります。診断群分類別包括評価(DPC:Diagnostic Procedure Combination)データベースを用いて、2012年4月~2013年3月の12ヵ月間における国内1,057施設での50歳以上の入院認知症/認知症関連疾患患者のデータを抽出・解析しています。患者背景は、140,494例中830例に入院時骨折が生じていました。年齢、性、施設を層別化因子として、817例の骨折群と3,158例の非骨折群(対照)を選定しました。骨折群と非骨折群の平均年齢はそれぞれ81.5歳、81.8歳でした。骨折群と非骨折群との間で年齢・性別に有意差はありませんでした。年齢分布も両群で同様でした。

 結果は、両群で最も多く使われていたのは、超短時間作用型非ベンゾジアゼピン(BZD)系睡眠薬で、次が短時間作用型BZD系睡眠薬でした。骨折群では非骨折群と比べ、睡眠薬や向精神薬を1剤でも使用していた割合が有意に高い結果でした(66.8% vs. 51.9%, p<0.001, χ2検定)。また、3剤以上を使用していた患者の割合も骨折群が有意に高い結果でした(24.2% vs. 14.6%, p<0.001, χ2検定)。骨折群では非骨折群と比べ、超短時間作用型非BZD系睡眠薬を含むほとんどの薬剤で使用の割合が有意に高い結果でした。

 短時間作用型BZD系睡眠薬と超短時間作用型非BZD系睡眠薬、ヒドロキシジン(アタラックス®)、リスペリドン(リスパダール®)、ペロスピロン(ルーラン®の使用は、入院認知症患者の骨折リスクの上昇と関連していました。中間~長時間作用型ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、日本の漢方薬の使用については骨折リスクとの有意な関連は認められませんでした。

薬剤と転倒・骨折の関係
薬剤と転倒・骨折の関係

高齢者に使用できる睡眠薬

 現在、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」と「認知症疾患診療ガイドライン2017」からの睡眠薬使用の基準は以下の通りです。

  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬は、認知機能低下・転倒・骨折・日中の倦怠感などのリスクがあるため可能な限り使用は控える(エビデンスの質・高、推奨度強)。
  • 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ゾピクロンなど)にも転倒・骨折のリスクが報告されており、少量の使用にとどめるなど、慎重に投与する(エビデンスの質・中、推奨度強)。「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より
  • 認知症患者の睡眠障害に有効な薬物療法としては、トラゾドン(レスリン®)の使用を検討してもよい(推奨度弱)。トラゾドンは1日50mgを2週間投与することにより、総睡眠時間が延長し睡眠効率が改善した。「認知症疾患診療ガイドライン2017」より
  • メラトニン受容体作動薬のラメルテオン(ロゼレム®)とオレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(ベルソムラ®)はBDZ系でみられる副作用がみられず、高齢者に対して比較的安全と考えられる。ただし、トラゾドンとラメルテオンに関するシステマティックレビューでは、軽症から中等症のアルツハイマー型認知症を対象としたラメルテオンの効果は認められなかった(Cochrane Database Syst Rev. 2016 Nov 16;11(11))。また、ラメルテオンはプラセボと比較して睡眠潜時の短縮に有意差を認めないとするメタ解析の報告がある(International journal of clinical practice 2012; 66(9): 867-73)。スボレキサントは日中傾眠の報告がある(J Am Geriatr Soc. 2015; 63 2227-46)。レンボレキサント(デエビゴ®)は2020年に発売されたオレキシン受容体拮抗薬だが発販売直後のため情報がない。
  • 不穏、興奮を伴うときは、クエチアピン(セロクエル® ) (25)1錠 分1夕後を先に服用させる方法もある。ラメルテオンはせん妄を抑制したという報告あり(JAMA Psychiatry 2014; 71(4): 397-403.)。
  • スボレキサントとラメルテオンは従来の睡眠薬より薬価が10倍以上高いことに注意する。
一般名商品名作用機序容量 / 薬価 /
トラゾドンレスリンSARI(セロトニン遮断再取り込み阻害薬)25mg6.8
スボレキサントベルソムラオレキシン受容体拮抗薬15mg89.1
ラメルテオンロゼレムメラトニン受容体作動薬8mg84.6
ゾピクロンアモバン非ベンゾジアゼピン系超短時間作用型睡眠薬7.5mg7.3
ブロチゾラムレンドルミンベンゾジアゼピン系短時間作用型睡眠薬0.25mg9.9
ゾルピデムマイスリー非ベンゾジアゼピン系超短時間作用型睡眠薬10mg21
代表的な睡眠薬と薬価

 以上より、高齢者、認知症者に使いやすい睡眠薬は以下の通りになります。

  1. トラゾドン(25)1錠分1眠前(効果不十分なときは50mgまで増量)
  2. スボレキサント(15)1錠分1眠前(入眠困難、中途覚醒、睡眠サイクルが不規則な場合)
  3. ラメルテオン(8)1錠分1眠前(昼夜逆転、睡眠サイクルが不規則な場合)

 不穏、興奮を伴うときは、セロクエル(25)1錠分1夕後を先に服用させる(糖尿病患者は禁忌)。

 ただし睡眠薬処方の前に、睡眠障害を起こす身体症状、環境変化を解決することが重要です。

  1. 疼痛・異常知覚・掻痒
  2. 尿意切迫、尿失禁、便失禁
  3. せん妄を起こす薬剤の服用:H2ブロッカー(シメチジン®など)、ヒドロキシジン(アタラックス®)、副腎皮質ステロイド、三環系抗うつ薬、抗パーキンソン病薬(L-Dopa)、オピオイド、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、バルビツール酸系睡眠薬
  4. 騒音、明るい部屋、温度管理

  まず非薬物対応を行います。昼間に日の光を浴び、夜明かりを暗くするとメラトニンが正常分泌され自然の眠りを促すことができます。適度に体が疲れていると睡眠を促します。体が不快と感じている原因をできるだけ取り除きます。夜頻回にトイレに行く人は神経因性膀胱などがないか泌尿器科で評価が必要です。せん妄を起こす薬がないかチェックが必要です。H2ブロッカーがせん妄の原因とよく言われていますので注意が必要です。

 トラゾドンはせん妄を抑える効果もあると言われ、使いやすい薬です。スボレキサントは転倒リスクが低いですが、睡眠導入の意味では弱い印象です。トラゾドンと併用することもあります。ラメルテオンもせん妄を抑える効果があると言われていますが、効果を実感するのに時間がかかると言う意見が出ています。これらで効果が見られないときはクエチアピンを併用することがあります。ただし日中傾眠、誤嚥性肺炎に注意し、短期間に留めることが望ましいです。

 転倒・骨折は高齢者のADLを大きく落とします。睡眠薬の選択は新薬の発売で以前と大きく変わりました。今後新薬の情報が蓄積されるとガイドラインも変更されていきますので、引き続き最新の情報をチェックしていく必要があります。

以下も参考にしてください

認知症、せん妄に用いる治療薬一覧