クエチアピンはドネペジルと併用することで抗認知症薬の効果を増強する期待がある

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 クエチアピン(セロクエル®)は認知症のBPSD、せん妄に対して鎮静目的で使われることがある非定型抗精神病薬です。投与約2.6時間後で最高血中濃度に達し、半減期が3.5時間のため、キレの良い薬として夜間せん妄対策にも使用されます。今回紹介する論文では、クエチアピンはブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)を阻害する作用があると報告しています。抗BuChE作用は抗認知症薬のガランタミンが持つ作用の一つで、BuChEを阻害することによってコリン作動性神経を賦活化させる効果があります。また統合失調病治療薬の新規PDE10A阻害薬はアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を阻害する作用が確認されました。抗AchE作用はドネペジルを代表とする抗認知症薬の中心的な機序で、アセチルコリンの分解を抑えることでコリン作動性神経を賦活化します。これまで精神症状対策用だったクエチアピンや新規PDE10A阻害剤が認知症の中核症状にも作用する可能性を示したのが本論文になります。

J Enzyme Inhib Med Chem. 2020 Dec;35(1): 1743-1750.doi: 10.1080/14756366.2020.1818739.

背景と方法

 クエチアピンは、ジベンゾチアゼピン誘導体に属する非定型抗精神病薬です。セロトニン5HT1Aと5HT2、ドーパミンD1とD2、ヒスタミンH1、およびアドレナリンa1とa2受容体でアンタゴニストとして作用します。統合失調症、双極性障害、大うつ病、強迫性障害、パーキンソン病や認知症のBPSDなどに適応があります。これまでにクエチアピンはアルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルで認知機能障害と病理学的変化を改善したという報告がありました。また脳由来神経栄養因子(BDNF)mRNAの発現を刺激することで、統合失調症の認知機能障害を改善する効果も報告されています。

 今回、クエチアピンと新規抗精神病薬であるPDE10A阻害薬(CPL500036-01、CPL500036-02)のAchEおよびBuChE活性に対する効果を調べました。また抗認知症薬であるドネペジルと混合させたときのAchEおよびBuChE活性も調べています。AChE活性測定には、改良型Ellman法を用いています。クエチアピンによるBuChE阻害は基質(BTC)の濃度減衰(2倍、3倍、5倍、10倍、20倍希釈)で計測しました。ドネペジルと各薬剤を混合させた時の抗AChE効果は改良型Ellman法で計測しました。

結果

 まずはクエチアピンと新規PDE10A阻害剤のAChE阻害率を示します。

figure1

 濃度0.01-100mmol/Lの範囲で投与したクエチアピンは、AChEを最大8.82±1.68%まで阻害しました。一方、CPL500036-01では22.32±1.46%、CPL500036-02では34.87±1.65%まで阻害し、新規PDE10A阻害剤でAchE阻害率が高い結果でした。

 次にBuChE阻害作用です。

figure2

 クエチアピンがIC50 6.08μmol/l(BuChEを50%阻害する濃度)と最も高いBuChE阻害作用を示しました。これはドネペジルのIC50 12.8±1.52μmol/lよりも強力であることを示しています。下のTableはBuChEの酵素反応速度を数値化したものです。クエチアピンとBuChE阻害薬を混合するとVmax低下(Vmax(i))、Km増加(Km(i))を示しました。これはクエチアピンが阻害薬と混合すると、BuChE阻害作用が増強することを示しています。CPL500036-01、CPL500036-02については、IC50は測定できませんでしたが、有意にBuChE阻害作用を示しました。

table

 ドネペジルとクエチアピンおよび新規PDE10A阻害薬との間の相乗効果について調べました。

Figure3

 BuChE活性については、ドネペジルとCPL500036-01の混合物が最大の阻害効果を示しました。IC50は2.13±1.45mmol/lで、ドネペジルのみと比較して約83%低い値を示しました。400nmol/lのクエチアピンと25mmol/lのCPL500036-02では、IC50は1.3倍、3.4倍に減少しました。AChE活性については、ドネペジルとクエチアピンの混合物では、ドネペジルのみと比較して同様のIC50値が得られました。またドネペジルとCPL500036-02を混合した場合のIC50は21.72±0.48 nmol/Lであり、ドネペジル単独のIC50よりも15.09%低い値を示しました。

 次にChou–Talalay 法を用いて、ドネペジルとの相乗効果を調べました。

Figure4

 ドネペジルとCPL500036-01の混合物は、低Fa値で1以上のCI値を示し、拮抗作用が示唆されました(CI<1で相乗効果を示します)。BuChE阻害効果については、Faが最も小さい値でドネペジルとCPL500036-02混合物、最も高い値でドネペジルとクエチアピン混合物のCIが1を越えていましたが、その他のCI値はすべて1未満で相乗効果を示しました。

考察と結論

 本研究では、AChEとBuChEの活性に対するケチアピンの効果を評価しました。クエチアピン100mmol/lではAChEに対して8.82±1.68%の最大抑制効果を示しました。またドネペジルのAChE活性を変化させないことが明らかになりました。ドネペジルの治療効果は、クエチアピンによる影響を受けないと判明しました。アルツハイマー病患者ではBuChEの活性が徐々に上昇することが言われています。BuChEに対するクエチアピンのIC50値は6.08±1.64mmol/Lであり、ドネペジルの約半分の値を示しました(ただしドネペジルはBuChEに比べて約500倍の親和性を有するAChE選択性薬剤です)。本研究では、ドネペジルの抗BuChE作用をクエチアピンが補い、IC50が1.3倍に低下したことが重要な発見となっています。したがって、ドネペジルのようなAChE阻害薬と抗精神病薬との間に潜在的な相乗効果があるかどうかを確認することは非常に重要であり、将来的には、より強力な治療選択肢の幅が広がる可能性があると考えられます。

 今回は新規PDE10Aを阻害薬についても検討しています。両新規PDE10A阻害薬が、クエチアピンよりもAChE阻害作用が高いことを特徴としており、最大阻害率は約22.32%、34.87%に達していました。反対にBuChE阻害についてはクエチアピンほどの効果は得られませんでした。

 ドネペジルとCPL500036-01を併用した場合のBuChEのIC50値は、ドネペジル単独の場合に比べて約6倍低くなりました。ドネペジルとCPL500036-01を併用することで、ドネペジル単独よりも高い抗BuChE効果が得られました。このような相乗効果が認められたことから、精神疾患とアルツハイマー病を併発している患者への臨床的有用性が期待されます。

 アルツハイマー病患者を含めた認知症患者の約90%が、妄想、攻撃性、焦燥感などの精神神経症状を発症すると推定されています。非定型抗精神病薬は、アルツハイマー病に伴う焦燥感や攻撃性に対して中等度の効果を示すものもありますが、アルツハイマー病の特徴である認知機能やChE活性への影響は未解明のままでした。今回クエチアピンはAChE活性には弱い効果でしたが、BuChE活性は中等度阻害しました(IC50 6.08 ± 1.64 mmol/l)。重要なことに、クエチアピンはドネペジルの抗BuChE作用を増強し、IC50値は1.3倍低下しました。これらの結果は、クエチアピンと臨床的に承認されているChE阻害剤(ドネペジル)との間に有益な相互作用が存在する可能性を示唆しています。

 PDE10A阻害薬は、クエチアピンよりも優れた抗AchE作用を有していましたが、対照的に抗BuChE作用はクエチアピンよりも低い結果でした。今回、両PDE10A阻害薬がドネペジルのBuChEに対する阻害作用を増強したことが大きな発見で、IC50値が約6倍に低下したことが明らかになりました。今回、ドネペジルなどのAChE阻害薬と抗精神病薬との間に潜在的な相乗効果があることが判明しました。今後、抗精神病薬を選択する際、コリン作動性神経に影響を与える薬剤かどうかで選択・除外するきっかけになるかもしれません。