薬局のアンケートによる抗認知症薬の有害事象は興奮・不眠が多い

薬局

 本研究の目的は、抗認知症薬投与中に発生する有害事象の種類と有病率、およびその危険因子を明らかにすることです。抗認知症薬の調剤を行っている薬剤師にアンケート調査を実施し、抗認知症薬の副作用の有無、患者背景、薬剤師が初めて患者訪問した際に服用していた薬の数、抗認知症薬の使用の妥当性について回答を依頼しました。全国1673薬局から3712名の患者を対象とした調査を実施し、863名の患者に抗認知症薬が処方されていました。863名中801名(92.8%)が75歳以上であり、有害事象は863名中170名(21%)に発生していました。有害事象で最も多かったのは興奮・不眠で、45.1%でした。多変量解析の結果、多剤服用(1日に10種類以上の薬剤を服用)(P=0.030)、不適切な使用(P=0.002)、不規則な薬物使用(P=0.034)が危険因子であることが明らかになりました。

PLoS One. 2020 Apr 6;15(4): e0231226.doi: 10.1371/journal.pone.0231226. eCollection 2020.

背景

 プライマリーケアの現場で医師から処方された抗認知症薬を服用している認知症患者の有害事象データを解析した研究はほとんどありません。具体的には、臨床現場から直接有害事象のデータを得て、有害事象の有病率や危険因子を正確に把握した疫学研究はほとんど行われていません。その理由の一つとして、医師は重篤な有害事象に比べて軽度の有害事象を過小報告する傾向があることが挙げられます。また、これまでに発表された抗認知症薬の疫学研究のほとんどは、抗認知症薬を販売している製薬会社からの資金提供を受けて行われており、有害事象の有病率が低いことを示しています。本研究の目的は,抗認知症薬を服用している患者に発生する有害事象の種類と頻度,その危険因子を明らかにすることです。これらの患者を担当する薬剤師からデータを取得する方法を用いて全国調査を実施しました。

方法

 本研究では、薬局に勤務し、患者を在宅訪問している薬剤師にアンケートの回答を依頼しました。これらの薬剤師が在宅訪問している患者が服用している薬物療法について、独自のアンケートを用いて全国調査を実施しました。アンケートで得られた患者に関する情報は、患者の症状や治療のアドヒアランス、薬物療法の適切性、薬物による有害事象です。今回の調査では抗認知症薬の具体的な薬名は聞いていません。患者の属性(性別、年齢、介護度、生活状況)、薬剤師が初めて在宅訪問したときの患者の所持薬数、薬剤師が初めて在宅訪問したときの患者の治療アドヒアランス、および薬剤師による抗認知症薬の有効性の評価を共変量として多変量ロジスティック回帰分析を行いました。本調査は2018年1月10日から2018年3月30日の間実施されました。

結果

 全国1673薬局から3565人の患者データを調査に用いました。患者の平均年齢は80.1歳。男性患者は1411人(40%)、女性患者は2154人(60%)。75歳以上の患者は2704人で、79%を占めていました。介護度2は734人(22%)、1が677人(20%)でした。基礎疾患は認知症が868人(26%)で最も多く、次いで循環器疾患が607人(18%)、脳梗塞が410人(12%)、がんが276人(8%)となっています。生活状況は、自宅での一人暮らし(1026人、30%)が最も多く、次いで家族との同居(844人、24%)、介護付き共同住宅での生活(806人、23%)となっています。

 抗認知症薬を処方された患者では、男性264人(32%)、女性573人(68%)でした。抗認知症薬を処方された患者のうち、75歳以上の患者は764人(93%)で、要介護度2の患者は217人(27%)、要介護度1の患者は205人(26%)でした。抗認知症薬を処方された患者の主な疾患は、認知症が539人(67%)で最も多く、次いで心血管疾患が96人(12%)、脳梗塞が62人(8%)、パーキンソン病が28人(4%)でした。生活状況は、介護付き共同住宅での生活が299人(37%)で最も多く、一人暮らしが217人(27%)、配偶者との同居が148人(18%)でした。

 抗認知症薬を処方された患者のうち、有害事象が確認されたのは男性43例(17%)、女性122例(23%)であり、抗認知症薬を処方された患者全体では170例(21%)でした。有害事象の傾向は、興奮・不眠が74例(45%)、悪心・嘔吐・下痢が55例(34%)、幻覚・妄想・幻視が35例(21%)、徘徊・暴力行為が26例(16%)でした。

抗認知症薬の有害事象

 有害事象の全体的な発生率は20.9%でした。性別と介護度を調整したオッズ比は、薬剤師が初めて患者を在宅訪問したときの服用薬剤数が10種類以上で1.51(95%CI:1.04~2.19)、「週1~2回の服薬を忘れる」が1.55(95%CI:1.03~2.31)、不適切な抗認知症薬の処方」が2.85(95%CI:1.46~5.60)でした。

考察

 これまで抗認知症薬を投与されている患者に発生した有害事象の有病率を正確に把握するための調査はほとんど行われていませんでした。本研究では、これまでに実施された研究(市販後調査報告や小規模観察研究)と比較して、有害事象の発生率が高いことが示されました。この結果は、抗認知症薬物療法に起因する有害事象が、これまでに認知されているよりも多く発生していることを示唆しています。

 男女ともに最も多かった有害事象は興奮・不眠で、半数近く(45.1%)に発現しました。次に徘徊・暴力行為は21.3%に発生しました。つまり、抗認知症薬治療において、過剰な精神的興奮や制御不能な身体運動が頻発し、顕著な有害事象であることが明らかになりました。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は肝臓で代謝され、NMDA受容体拮抗薬は腎で排泄されるため、これらの機能が低下している高齢者では、治療に最適な血中濃度を超えて精神的興奮を起こす可能性があります。今回の研究対象となった患者は平均年齢が80歳を超え、肝機能や腎機能が低下していた可能性があります。

 有害事象の発現率には男女間で有意差はありませんでしたが(P=0.090)、女性の方がやや多い傾向でした。有害事象の発生率の男女差に関する報告は少ないですが、薬物療法においては一般的に女性の方が有害事象の発生率が高いことが知られています。これは、女性の方が高用量を服用することが多いことや、薬物動態や/または薬力学に起因するものです。しかし、本研究で有害事象の発生率が女性の方が高かったのは、年齢別分布では、有意差はないものの(P=0.153)、女性で高齢者が多かったためと考えられました(85歳以上の患者410名中、男性47.1%、女性50.9%)。

 抗認知症薬を処方され、有害事象を認めた患者(n=170)に処方されていた薬の数の平均は8種類(SD=4.33)でした。薬剤師が最初に自宅を訪問したときに、薬剤師が介入する前に1日10種類以上の薬剤を服用していた患者(231人、うち61人が有害事象を発症した)は、1日9種類以下の薬剤を服用していた患者(530人、うち100人が有害事象を発症した)に比べて、有害事象の発生率が有意に高い結果でした(P = 0.019)。患者の主治医は認知症専門医だけではなく、プライマリーケア専門医、循環器専門医、消化器専門医も含まれていました。また、整形外科や脳神経内科など複数の専門医から様々な薬を処方されている患者もおり、個々の患者が処方されている薬の情報は、必ずしも全医師間で共有されていませんでした。

 薬剤師が初めて患者を自宅に訪問した際の治療アドヒアランスをみると、「週1~2回の服薬を忘れた」患者では、指示通りに服薬した患者やほとんど服薬しなかった患者に比べて、有害事象が有意に多い結果でした(P=0.034)。これは、治療の中断により薬物の血中濃度が低下した患者が服薬を再開した場合、血中濃度が急激に上昇するか、あるいは上昇の程度が通常よりも大きくなり、吐き気や嘔吐、興奮や不眠などを経験する可能性が高くなるためと考えられました。

 薬剤師に、抗認知症薬の使用が適切かを評価してもらいました。その回答によると、薬剤師が抗認知症薬の使用が不適切と判断した患者42例では、有害事象の発生率が38.1%であったのに対し、薬剤師が抗認知症薬の使用が適切と判断した患者753例のグループでは19.5%でした(P=0.009)。抗認知症薬の使用を支持するエビデンスが乏しい85歳以上の患者では、抗認知症薬が不適切に使用されている可能性があります。National Institute for Health and Care Excellence(NICE)は、患者の認知機能、身体機能、機能的・行動的症状を定期的に評価・見直し、治療が有効であることが判明した場合にのみ治療を継続することを推奨しています。これにより、抗認知症薬の誤用を防ぎ、薬物療法の適切な使用を促進することに役立っています。

 本研究では参加者の募集とデータ収集に偏りがあった可能性があります。本研究に参加した薬剤師は、比較的高い臨床専門性と抗認知症薬への関心が高い薬剤師層を構成している可能性が高く、選択の偏りがある可能性があります。次にれらの有害事象に他の要因(既存の精神疾患や消化管疾患、メニエール病、その他の生活習慣やストレス要因など)が関与している可能性を完全に排除することはできません。薬剤師が「不適切な抗認知症薬使用」と判断する厳密な評価ツールや基準がないため、薬剤師の能力や経験などによって評価が異なる可能性がありました。

 本研究は、既存のEHRや医師の報告書などのデータ分析ではなく、薬剤師から直接得られたデータを用いた点で、従来のアプローチとは異なる方法で行いました。抗認知症薬は、市販後あまりにも簡単に処方されるようになり、その有効性の評価はほとんど行われておらず、有害事象は見過ごされていることが多いです。本研究で得られた知見が、抗認知症薬を処方されている患者さんの安全性と有効性の向上につながることを期待しています。