「薬剤師が教える親が認知症になった時に読む本」は施設入所や福祉サービス利用に悩む家族の心を楽にしてくれます

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 「薬剤師が教える親が認知症になった時に読む本」の著者は、以下に該当している方に本書を特に読んで欲しいと考えています。

  1. 認知症になった身内の介護で仕事を続ける自信が持てないあるいは諦めようと考えている方
  2. 施設入所させることに罪悪感を抱いている方
  3. 認知症になった身内を見て、絶望感・不安感に苛まれている方

 認知症者に限らず誰かを介護するというのは人生をもうひとり分抱えて生きていくことで、その苦労・心労は計り知れません。身内の介護を義務に捉えてしまうと、介護保険サービス利用や施設入所すらも逃避と解釈して罪悪感に囚われることがあります。著者はそのような方に「仕事も遊びも諦めない介護スタイル」をすすめています。本書を読むと、著者の体験談に共感を覚えながら、自分自身も義務感から解放された気持ちを持つことに気がつくと思います。本書は家族会に参加できず、介護を真摯に続けている方こそ読んで欲しい一冊です。

著者が認知症の母親を通して体験したこと

 筆者の母親は2011年に認知症を発症。介護保険サービスを利用しながら自宅生活を続け、2013年に施設に入居しています。施設の形式は住宅型の有料老人ホームで、認知症が重度になると認知症専門フロアに移れる施設を選択しました。最初は物忘れから始まり、幻視、幻聴、妄想、興奮、低温火傷、転倒による大腿骨骨折、鎖骨骨折と認知症で起こりうる精神症状や外傷を一通り経験されています。介護度も2から4に上がりました。著者が自宅で介護をしている時は仕事や外出中にも連絡があり、当時は自分のための時間がほとんどなかったと推察されます。

 著者は「親が認知症になっても自分の人生には、関係ない」「自分のライフスタイルを諦めない方が良い」ことを信条としています。また同時に「(認知症の)母と一緒に過ごすことが私のやりたいことの1つ」と考えています。この気持ちに気がついたのは母親を施設に入所させてからだそうです。「自分の人生」を生きたいことと、「身内の介護」を続けたいという相反する思いは介護経験のある人なら多かれ少なかれ経験したことがあると思います。前者を選ぼうとすると後ろめたさや申し訳なさを感じ、後者を選ぼうとすると自分の人生を犠牲にする不安感や絶望感を抱いてしまいます。著者は様々な想いを経て「仕事のスタイルを変更する」「仕事を辞める」ことを選択せず、施設への入居を選びました。この時に「母と一緒に過ごす」ことが「自分のやりたいこと」に結びついたのかもしれません。

認知症者は悪い体験だけでなく良い体験をしても認知症症状が進むことがある  

 認知症は喜んだりプラスの感情を強く持っても、その感情をコントロールできず、興奮状態となり症状が進んでしまうことがあるそうです。著者の母親はプロ野球が好きですが、「東京ドームで野球観戦」をした後、一気に幻視・幻聴・妄想が増えたそうです。楽しい体験も日常からかけ離れすぎるとうまくいかないことがあると実感しました。認知症は環境の変化により症状がどんどん進行すると言われています。本症例も施設入所により服薬管理ができなくなった、化粧ができなくなった、骨折による入院で身の回りのことができなくなり認知症フロアに移ったなどのエピソードが詳しく書かれています。ただ退院した後施設に戻っても馴染みのスタッフの顔は覚えていたようで、表情が穏やかになったのは印象的です。心身とも落ち着いたのは退院して1年程かかったようです。

新型コロナウィルス感染流行で面会ができない代わりにZoomが役立った

 2020年3月末から、新型コロナウィルスの感染拡大防止策の一環として、家族や知人などの面会が一律禁止になりました。更に訪問マッサージやリハビリも中止になりました。果物やジュースなどの受け渡しは玄関横の小部屋で行っていました。普段の様子は「訪問介護提供記録」を読むことで分かるようになっていました。

 面会がしばらく出来ないため、簡単に導入できる「Zoom」を用いて会話を行う方向になりました。母親の反応は途中で寝てしまう、ウトウトしていることもあれば、「なんでこっちに来ないの?」と怒り出すこともありました。いつも座っている椅子に座り、普段家族の写真が飾っている場所に画面を置いてやり取りをすると、画面に顔を近づけて笑ったり、家族の名前を呼びかけたりと喜んでくれたようです。6回目以降はZoom越しの面会であることが分かったようです。その後は面会者に発熱や感染者の接触がないことを条件に決められた場所で面会ができるようになりました。突然始まったZoom面会も、今後の遠隔リモート面会普及に一役買い、家族が施設入居の選択肢を考えるきっかけになったのではないかと著者は考えています。

 本書は家族が認知症ではないかと気づいてからの認知症外来への受診、介護保険の申請、介護サービスを利用しながらの自宅介護、施設入所後の面会、大腿骨骨折による入院、施設内の認知症フロアへの引っ越しなど節目となる出来事を分かりやすく説明しています。介護保険や施設入所の手順が分からず二の足を踏んでいる方にとっては良い道標になると思います。また第3者の手を借りることに後ろめたさを感じている人も本書を読むことで勇気づけられると考えます。「自分のライフスタイルを確立しながら、親とも積極的に関わることはできる」と著者は推奨しています。筆者のやりたいことの一番は「母と一緒に過ごすこと」、そしてそれは「リモートでも心の繋がり、温もりを感じることができる」と書いているのが印象深く残りました。

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yshima脳神経内科医
認知症専門医の資格を持つ脳神経内科医です。 神経内科専門医・指導医、総合内科専門医・指導医、認知症サポート医。 M.D., Ph.D.