歯周炎は認知症発症のリスクになる(台湾からの報告)

歯周炎の画像

 今回紹介する論文は、歯周炎が認知症のリスクになるかをコホート調査で調べています。台湾の国民健康保険データベースを用いて、2000年から2008年にかけて新たに歯周炎と診断された50歳以上の患者56018人を同定しました。また、歯周炎を発症していない成人56018人のコホートを比較のために、年齢と性別でマッチングさせました。両コホートとも2000年から2013年末まで追跡調査を行い、認知症発症例を調べました。多変量解析を用いて、歯周炎に関連した認知症の調整済みハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出しました。

 結果は、歯周炎は認知症リスクと関連しており(HR 1.79、95%CI 1.67-1.93)、男性・女性・60歳以上の人で有意でした。歯周炎患者では、脂質異常症治療薬のスタチン使用(HR 0.78、95%CI 0.71-0.87)、糖尿病治療薬のメトホルミン使用(HR 0.53、95%CI 0.44-0.62)、インフルエンザワクチン接種(HR 0.67、95%CI 0.61-0.74)で認知症リスクが低下し、糖尿病・精神障害・脳卒中が主要な危険因子でした。歯周炎は認知症の危険因子で、スタチンとメトホルミンの使用が認知症のリスクを低下させる可能性がありました。

J Clin Periodontol. 2020 Sep 29. doi: 10.1111/jcpe.13372.

背景

 歯周炎は成人で非常に有病率が高く、歯科公衆衛生上の重要な問題です。2009年から2010年の米国国民健康・栄養調査のデータでは、65歳以上の成人の64%が中等度または重度の歯周炎に罹患していることが示されています。歯周炎は特定の病原体によって引き起こされ、宿主免疫系および環境リスク因子と関連しています。糖尿病・心血管疾患・骨粗鬆症・癌などの全身性疾患が歯周炎と関連していることがわかっています。

 近年、認知症患者における口腔衛生の問題が指摘されています。また、歯周炎患者は対照群に比べて認知症リスクが高いことを報告した研究もあります。しかしながら、少人数の報告ばかりで歯周炎と認知症との関係はまだ十分に研究されていません。本研究では、台湾の国民健康保険研究データベースを用いて、歯周炎患者の長期的な認知症リスクを評価しました。また、歯周炎患者における認知症リスクの潜在的な保護因子を検討しました。

方法

 台湾の国民健康保険プログラムは1995年に開始され、2,300万人を含む台湾の全住民の99%以上をカバーしています。この研究データベースには、すべての受給者の入院・外来医療サービス、患者の基本的な人口統計、医師の一次・二次診断、治療方法、処方された薬、医療費などの情報が含まれています。この国民健康保険調査データベースの受給者100万人の無作為サンプルを用いて、2000年から2008年の間に新たに歯周炎と診断された50歳以上の患者56018人を同定し、対照群として歯周炎の診断歴のない56018人を年齢と性別でマッチングさせました(症例対照比=1:1)。認知症の発症は、2000年から2013年までの追跡期間中の報告としました。このレトロスペクティブコホート研究の目的は、歯周炎のある人とない人の間で認知症の発症リスクを比較することです。

 本研究では、患者の低所得状態を特定し、国民健康保険局の規定に基づく医療費免除の対象とすることで定義しました。また、ベースラインからフォローアップ期間までの共変量として、合併症と薬を同定しました。合併症は、高血圧、精神障害、糖尿病(、虚血性心疾患、脳卒中、高脂血症、慢性閉塞性肺疾患、心不全、肝硬変、外傷性脳損傷、腎透析を抽出しました。

結果

 歯周炎のある人とない人の間では、年齢や性別に有意差はありませんでした。歯周炎患者は,歯周炎のない患者に比べて、高血圧・精神障害・糖尿病・虚血性心疾患・脳卒中・高脂血症・慢性閉塞性肺疾患・心不全・肝硬変・外傷性脳損傷の割合がすべて高値でした(p<0.01)。また、スタチンやメトホルミンの使用、インフルエンザワクチンの接種を受けた患者の割合も、歯周炎のある患者では歯周炎のない患者に比べて高い結果でした(p<0.0001)。

 観察期間中、歯周炎患者の方が歯周炎なしの患者よりも認知症の発症率が高い結果でした(1000人年あたり5.19 vs. 3.02、p<0.0001)。また男女別でも、男性(HR 1.80、95%CI 1.61-2.01)、女性(HR 1.66、95%CI 1.51-1.83)と両方で有意を認めました。60歳以上の人で、歯周炎のある人は認知症リスクが有意に高く、特に80歳以上の人で高値でした(HR 4.30、95%CI 3.45-5.35)。

 認知症リスクの増加は、スタチン(HR 1.97、95%CI 1.81-2.15)、メトホルミン(HR 1.84、95%CI 1.71-1.99)、インフルエンザワクチン接種(HR 2.42、95%CI 2.16-2.70)をしていない人の歯周炎患者と関連していました。糖尿病(HR 2.56、95%CI 2.28-2.88)、精神障害(HR 3.13、95%CI 2.83-3.47)、脳卒中(HR 2.58、95%CI 2.32-2.88)は、観察期間中の歯周炎患者における認知症リスクの主要な危険因子でした。歯周炎患者のうち、スタチン系薬剤の使用(HR 0.78、95%CI 0.71~0.87)、メトホルミン(HR 0.53、95%CI 0.44~0.62)、インフルエンザワクチン接種(HR 0.67、95%CI 0.61~0.74)が認知症リスクの低下と関連していることがわかりました。

考察

 今回のレトロスペクティブコホート研究では、歯周炎患者は認知症リスクが高いことがわかりました。歯周炎と認知症リスクの関連は、男女ともに60歳以上の人で有意でした。特に観察期間中の歯周炎患者において、スタチン・メトホルミン・インフルエンザワクチンの使用が認知症リスクの低下と関連していました。

 歯周炎患者における認知症リスクの増加については、少なくとも2つの説明が考えられます。第1に、歯周炎病原体の宿主免疫応答は、IL-1・IL-6・TNF-αなどの炎症性サイトカインを増加させます。この炎症性サイトカインは血液脳関門を障害し、中枢神経系の炎症反応を引き起こす可能性があります。歯周炎は感染と炎症に起因する疾患であり、歯周炎といくつかの全身疾患との関係も報告されています。歯周炎と認知症の間のメカニズムとして考えられるのは、炎症性疾患と炎症性サイトカインの関与があると考えられます。

 第2に、歯垢バイオフィルムからの微生物が脳や神経系に侵入する可能性があります。歯垢バイオフィルム中の細菌は、血液あるいは神経を介して脳に侵入する可能性があります。

 スタチンは、ヒドロキシメチルグルタリルコエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素の阻害剤であり、歯周炎の障害を減少させる報告があります。集団コホート研究では、スタチン使用が脳震盪後の脳卒中のリスク低下と関連していました。スタチンは脳卒中を予防する効果もあるため、歯周病患者の認知症リスクを低下させると考えます。

 メトホルミン(ビグアナイド系経口血糖降下剤)は、2型糖尿病患者においてグルコース濃度を低下させ、インスリン感受性を増加させる糖尿病治療薬です。ラットの研究では、メトホルミンが骨芽細胞の分化促進に効果を持つことが明らかになりました。無作為化臨床試験では、1%のメトホルミンゲルが歯周欠損部の歯周再生効果を有することが示されました。メタアナリシスでは、メトホルミン治療は糖尿病患者における心血管イベントの減少と関連していました。2件のレトロスペクティブコホート研究では、メトホルミンの使用が米国人集団における認知症リスクの低下と関連していることが示唆されました。糖尿病は認知症の危険因子とされており、メトホルミン使用は糖尿病のコントロールに有効で、認知症リスクを下げると考えられます。

 歯周炎患者の認知症リスクに対するインフルエンザワクチン接種の有益な効果を考察しました。インフルエンザワクチン接種を受けた人は、疾病予防の知識・心構え・実践がより良くなっているのではないかということが考えられます。しかし、インフルエンザワクチン接種と認知症との間の抗炎症メカニズムについては、強固なエビデンスを得るために、さらなる臨床試験や生化学的研究が必要です。

 本研究の結果を解釈する際には、いくつかの研究限界に注意する必要があります。第1に、台湾の国民健康保険データベースには歯周炎に関する詳細な情報がなかったため、歯周炎の重症度を分類することができませんでした。第2に、保険データベースには、患者の詳細な社会経済状況、生活習慣、検査データ、服薬遵守状況などの情報が不足していました。第3に、台湾の国民健康保険の研究データでは、認知症の診断とICD-9-CMコードの妥当性を確認できませんでした。

結論

 歯周炎は認知症の独立した危険因子であり、この関連性は様々なサブグループで観察されました。スタチン、メトホルミン、インフルエンザ予防接種の認知症軽減効果については、さらなる臨床研究が必要です。安易に認知症リスクを軽減するためにメトホルミンを使用することを推奨するものではありません。しかし、歯周炎患者に対しては、認知症の治療可能な危険因子として歯科的評価と最適なコントロールを実施すべきと考えます。