パーキンソン病患者におけるCOVID-19発症及び増悪因子の報告

COVID-19

 パーキンソン病 (PD)は高齢者に多く、嚥下障害を合併しやすいため、COVID-19を含む呼吸器感染症のリスクが高いと考えられています。これまでの研究では、COVID-19の予後不良因子がPDの罹病期間と認知症に関連性があったという報告や、PDとCOVOD-19の入院率・死亡率には関連性がない報告などがありました。今回、レトロスペクティブ症例対照研究で、COVID-19陽性のPD患者で高頻度に認めた併存疾患は認知症でした。また多変量解析では、施設入所がCOVID-19陽性と関連する因子でした。また重度のCOVID-19患者で関連性が認められたのは施設入所と悪性新生物でした。今回、PD患者におけるCOVID-19の増悪因子に関する論文を紹介します。

J Neurol. 2020 Oct 24;1-5. doi: 10.1007/s00415-020-10272-0.

要旨

背景: パーキンソン病(PD)は高齢者に多く、呼吸器感染症のリスクが高い。PDとSARS-CoV-2(新型コロナウィルス)に関するこれまでのデータは乏しく,進行疾患や第2選択療法では予後が悪いことが示唆されている。

方法: スペインでのパンデミック期間中(2020年3月1日~7月31日)に、COVID-19を有するPD患者とCOVID-19を有さないPD患者を比較したレトロスペクティブ症例対照研究を大学病院で実施した。

結果: 39例(COVID-19+)と172例(COVID-19-)のPD患者を対象とした。両群ともに59%が男性で、年齢(75.9±9.0 COVID-19 + , 73.9±10.0 COVID-19-)、罹病期間(8.9±6.2 COVID-19 + , 8.5±5.6 COVID-19-)、およびPD治療歴は同程度だった。COVID-19は10例(26%)が軽症、21例(54%)が入院を必要とし、8例(21%)が死亡した。COVID-19+の患者で高頻度に認められた併存疾患は認知症であった(36% vs. 14%、p=0.0013)。しかし、多変量解析では、施設入所がCOVID-19+と関連する唯一の変数であった(OR 17.0、95%CI 5.0~60.0、p<0.001)。重度のCOVID-19(入院または死亡)と軽度または陰性のCOVID-19を検討した場合、施設入所、悪性新生物、認知症、およびドーパミンアゴニストの使用頻度の低さが、重度のCOVID-19と関連していた。多変量解析では、施設入所[OR 5.17、95%CI 1.57-17、p = 0.004]と悪性新生物[OR 8.0、95%CI 1.27-49.8、p = 0.027]のみが有意に関連していた。

結論: 筆者らの結果では、PD関連の因子はなく、施設入所および腫瘍の合併がCOVID-19の発症リスクを増加させ、その重症度に影響を与えていた。これらの知見は、疫学的因子とフレイル(虚弱)がPDにおけるCOVID-19の罹患率/死亡率の重要な因子であることを示唆している。感染を予防して予後を改善するために、施設に入院している患者には適切な予防戦略を実施すべきである。

背景

 コロナウィルスSARS-CoV-2は、コロナウィルス感染症2019(COVID-19)として知られる急性呼吸器症候群の原因ウィルスである。スペインでは現在までに2万9,000人以上が死亡しており、世界的に最もパンデミックの影響を受けている国の一つである。男性、高齢、過体重、糖尿病など、予後不良との関連性が指摘されているが、個々の要因の影響はまだ明確には確立されていない。

 パーキンソン病(PD)は高齢者に多く、フレイル(虚弱)を助長し、嚥下障害と呼吸機能低下により呼吸器感染症のリスクを高める。このことは、PD患者はSARS-CoV-2感染およびその合併症に対して特に重症化しやすい可能性を示唆している。PD患者では、感染そのものだけでなく、医療資源への限られたアクセス、移動の制限、予防措置による社会的交流低下などが負の因子として働いている。その結果、認知機能や運動機能の悪化、および他のPD関連の合併症のリスクが高まる可能性がある。

 アマンタジン(シンメトレル®)のようなPDで一般的に使用される薬剤の中には、SARS-CoV-2に対する抗ウィルス剤としての役割を果たす可能性が示唆されているものもある。また、ドーパ-脱炭酸酵素阻害薬活性の調節は、SARS-CoV-2の発症に関連する受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の機能を修飾すると考えられる。したがって、ドーパ-脱炭酸酵素阻害薬はCOVID-19に影響を与えることが示唆されている。

 PD患者とCOVID-19に関するデータは少ない。10人のPD患者を対象とした最初の研究では、その多くが進行した病状で介護施設に入所している患者であり、40%という非常に高い死亡率が示された。対照的に、1486人の参加者を対象とした症例対照研究では、COVID-19陽性のPD患者と非PD患者の間で入院率または死亡率に差がないことが明らかになった。COVID-19を発症したPD患者では慢性肺疾患の頻度が高く、そうでないPD患者ではビタミンDサプリメントの利用が多かった。ビタミンDには免疫調節作用と潜在的な抗ウィルス作用があり、これらの関連性を説明する可能性がある。ロンバルディア州のPD患者141人を対象とした別の研究では、COVID-19の有無による人口統計学的および臨床的変数の違いは認められなかった。この研究はサンプルサイズが小さく、差を検出するには統計不足である可能性があった。最後に、イタリア、イラン、スペイン、英国で行われたCOVID-19を有する地域住民居住型PD患者117人を対象とした最近の多施設共同研究では、全死亡率は19.7%であり、予後不良の予測因子は認知症とPDの罹病期間であった。高血圧とともに死亡率が増加する傾向がみられた。

 本研究では、PD患者におけるCOVID-19と関連する可能性のある人口統計学的および臨床的変数、および罹患率と死亡率に影響を与える可能性のある変数を評価することを目的としている。

方法

 2020年3月1日から7月31日までのパンデミック期間中に、PDとCOVID-19を有する患者(症例)とCOVID-19を有しないPD(対照)を有する患者の人口統計学的および臨床的特徴を比較するケースコントロール研究を行った。すべての患者は、スペインでCOVID-19の発生率が最も高い都市であるマドリッドにあるRamón y Cajal病院の運動障害疾患外来に通院している。データは電子カルテからレトロスペクティブに収集された。

 MDSの診断基準に基づいてPDと診断された患者が対象となった。非典型および二次性パーキンソン症候群除外した。症例(COVID-19+)は、COVID-19の臨床基準および検査基準を満たしていた。COVID-19の重症度を軽度(外来管理)、中等度(入院が必要)、または死亡に分類した。対照群(COVID-19-)は、7月1日~31日の間に当院の外来診療所で評価し、パンデミック期間中COVID-19の症状がなかった場合を対象とした。

 年齢、性別、罹患期間などの人口統計学的特徴、およびPD薬(レボドパの投与量、ド-パミンアゴニスト、アマンタジン(シンメトレル®)、エンタカポン(コムタン®)、オピカポン(COMT阻害薬)、MAO-B阻害薬による治療)、先進治療(脳深部刺激、DBS、レボドパ/カルビドパの持続十二指腸注入、アポモルヒネの持続注入、MRガイド下集束超音波)、併存疾患、施設入所などの臨床的特徴を収集した。

 統計解析はG-Stat(バージョン2.0)を用いて行った。記述統計および一変量解析(studentのT検定、χ二乗検定または適切な場合はフィッシャーの検定)および多変量解析(一変量解析で有意差のある変数を含むロジスティック回帰)を行った。第一に、症例(COVID-19 +)と対照(COVID-19 -)を比較した。次に、重症患者(COVID-19による入院または死亡)を、軽症またはCOVID-19と診断されていない患者と比較した。統計的有意性は<0.05とした。記述的結果は、平均値、標準偏差およびパーセンテージとして与えられた。ロジスティック回帰の結果は、95%信頼区間(95%CI)を持つオッズ比(OR)として与えられた。

結果

 合計211人のPD患者が対象となった。そのうち33例がCOVID-19+、172例がCOVID-19-であった(比率は1:4)。COVID-19は10例(26%)で軽度で、21例(54%)で入院を必要とし、8例(21%)で死亡に至った。

 併存疾患の頻度は、COVID-19+群とCOVID-19-群の間で類似していたが、認知症がCOVID-19+群で有意に高頻度であった(36%対14%、(p=0.0013))。多変量解析では、施設入所のみがCOVID-19+と有意に関連していた(OR 17、95%CI 5-60、p<0.001)。

 重度のCOVID-19と軽度または陰性のCOVID-19を比較すると、一変量解析では、施設入所、悪性新生物、認知症、ドーパミンアゴニストの服用なしが重度のCOVID-19と有意に関連した共変量であった。しかし、多変量解析では、施設入所と悪性新生物のみが重度COVID-19+と有意に関連していた [施設入所. OR 5.17 95%CI(1.57-17)p = 0.004;悪性新生物:OR 8.0、95%CI(1.27-49.8)p = 0.027]。

考察

 今回の単施設症例対照研究では、COVID-19の有無にかかわらず、PD患者の人口統計学的および臨床的特徴を調査した。結果は、PD患者におけるCOVID-19感染と関連していた唯一の因子は、施設入所であり、重度のCOVID-19の場合は悪性新生物であった。これらの関連性の説明がいくつかある。第一に、スペインではいくつかの施設で大規模なクラスター感染が起きている。また、施設に入院している患者は虚弱の傾向がある。しかし、筆者らは患者と対照者の間で他の併存疾患に関する有意差を見いだしておらず、フレイル(虚弱性)は併存疾患だけでは推論できないリスクの増大した状態であることを示唆している。重要なことに、重度のCOVID-19患者で悪性新生物と施設入所が高かった結果は、以前の研究でも報告されており、PD患者は非PDの重度のCOVID-19患者よりもベースラインの特徴が類似していることを示唆している。したがって、PDそのものではなく、疫学的および全身的な要因がSARS-CoV-2の感染および罹患率に最も関連する因子であると示唆することができる。スペイン保健省によると、パンデミックピーク時のこの年齢の一般集団におけるCOVID-19死亡率は、筆者らの研究と同様に約20~25%であった。

 筆者らは、COVID-19を有するPD患者と有さないPD患者の間で、年齢、罹患期間、採用された治療法(脳深部刺激、レボドパ/カルビドパ腸管ゲル、持続的皮下アポモルヒネ注入などの高度な治療法を含む)に有意差は認められなかった。筆者らの結果は、先進治療の使用とCOVID-19の重症度との関係が示唆されていたサンプルサイズが小さい先行研究とは対照的であった。このことはPD患者、その介護者、医療従事者を安心させる重要なものであり、PD自体やその治療がCOVID-19の合併症のリスクを高めるとは考えられないからである。しかし、これを確認するためには、さらなる前向き研究が必要である。

 筆者らのコホートでは、COVID-19に潜在的な有益性を有することが示唆されている薬剤に関しては、差は認められなかった。最近の研究と同様に、PDとCOVID-19を有する患者ではドーパミンアゴニストによる治療の頻度が低く、COVID-19を有さない患者ではビタミンDによる治療の頻度が高いことがわかった。潜在的に有用な関連を明らかにするためにはさらなる研究が必要である。

 筆者らの研究には、レトロスペクティブな調査研究と比較的サンプルサイズが小さいことに関連したいくつかの制限がある。さらに、重篤な疾患や死亡のリスクの増加を検出するために重要であるフレイルの尺度が使用されていない。しかし、本研究はPDとCOVID-19患者を対象とした最大規模の研究の1つであり、連続した対照群を用いているため、バイアスの可能性が低いと考えられる。

結論

 筆者らの研究は、施設入所と悪性新生物がCOVID-19発症のリスクを高め、その重症度に影響を与えていた。これは、PD患者の大規模なサンプルを用いた科学的文献に貢献している。これらの所見は一般集団で観察されたものと一致しており、いくつかの疫学的因子と虚弱性がPD患者におけるCOVID-19の罹患率と死亡率の重要な因子であることを示唆している。罹患期間やPD治療などの他の臨床的変数は関連がなかった。筆者らの研究は、施設に入所しているPD患者に焦点を当てた予防戦略を実施するために、十分な医療資源を介護施設に提供する必要性を訴えている。今後、神経内科医との遠隔医療は、これらの虚弱で複雑なPD患者の治療を継続するために有用であろう。