「認知症の取扱説明書」は認知症の対応法だけでなく、自分がこうならないようにする心構えも書かれ参考になります

認知症の取扱説明書

 「認知症の取扱説明書」は「認知症の困った症状の紹介」「間違った対応」「正しい対応」「自分がこうならないための行動」の4段階で構成されています。症状は「徘徊」「物盗られ妄想」「家の中をゴミだらけにする」「自動車運転時の事故」など幅広く扱われています。本書で特徴的と思ったのは、認知症者の対応だけでなく、自分が将来症状を起こさないために何を心がければ良いのかについても書かれていることです。読者のほとんどは介護者と思われますので、認知症予防については特に関心が高いと思います。「認知症の取扱説明書」の著者は「老人の取扱説明書」も書かれた平松類先生です。専門は眼科で、視覚と認知機能の関係を詳しく書かれています。私も視覚障害の認知症への影響については知らないことがありましたので、本書で勉強させてもらいました。

視力障害は認知症のリスクになる

 本書では五感(視力・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)のうち視力が特に認知症発症のリスクになると書かれています。目が悪いと、トイレの場所が分からず尿失禁、便失禁を起こす、外出をしても道が分からなくなり徘徊する、人と会っても顔が分からず記憶が定着しないなどの様々な認知機能障害に直結します。本書で特に印象的だったのは光が見えなければ昼夜が分からず、睡眠障害に繋がるという記載です。睡眠を促すメラトニンというホルモンは日の光を目に取り込むことで分泌されますので、視力障害のある方は睡眠サイクルが崩れやすいと考えられます。「白内障のある人が手術により目が見えるようになると、60%の人が認知機能の改善があった」という報告が記載されており、認知症予防の観点からも白内障、視力の評価は意識して行うのが望ましいと考えました。

交通事故は有効視野の狭小化が関係する

 視野は一般的に光を認識できる180-200度の広がりのある生理的な視野のことを言います。生理的な視野の他に有効視野があり、有効視野は20度程度の広がりで物が何となく分かるレベルとされています。自動車を運転しているときに重要なのはこの有効視野で、何かが急に飛び出してきたとき動物なのかゴミなのかを見極められる範囲が有効視野に相当します。有効視野は「眠い時」「疲れている時」「飲酒をしている時」に狭くなり事故が起こりやすくなります。また認知機能の低下でも有効視野は狭くなり、認知症者は信号や対向車に気づかず「信号無視」「交差点での事故」を起こしてしまいます。目の前の情報が多くなるほど有効視野は狭くなりますので、注意力障害のある高齢者はまずます有効視野が狭くなり事故を起こしやすくなります。そのため自動車運転は視力、認知機能の評価だけでなくドライビングシミュレーターを用いて有効視野を評価するのも重要と考えます。

新しいものを拒否するのは視覚と触覚低下が関係している

 高齢者に誕生日プレゼントをあげてもなかなか使ってくれないことがあります。認知症あるなしにかかわらず高齢者は視覚と触覚が衰えると、細かいものを扱うのが難しくなります。高齢者は若い頃に比べるとボタンの大きさが半分になったような感覚になり、更に視覚の低下によりボタンを見ながらかけ外しするのが難しくなります。せっかくの貰い物もうまく着られないため、いつもの慣れた服を着続けることになります。服のボタンの大きさは2cm以上が推奨です。同様の理由で、ガマ口財布を使っている高齢者が多いのは硬貨を簡単に取り出せるようにしたいからです。

 現在、スマートフォンが主流になっていますが、高齢者にとっては文字が小さすぎて読めない、指の乾燥でタッチパネルが反応しないという問題が起きています。アクセシビリティ機能で改善することは可能ですが、結局慣れ親しんだ携帯電話に戻ってしまうようです。手元の感覚を衰えさせないようにするためには、裁縫、編み物、プラモデル、盆栽など普段から細かいものを扱う練習を行うことを勧めています。

 他には便秘が徘徊・短気・暴力・ストレス過多・睡眠障害を引き起こす原因になっていること、徘徊で行方不明になった人の2割は「認知症と家族がきづいていなかった」というぐらい軽度だったこと、ゴミ屋敷になるのは物を手放す寂しさ・不安から捨てられなくなる、視覚・聴覚の衰えでゴミ溜めの習慣が出やすくなるからなどが気になりました。  本書は認知症の困った症状について幅広く書かれていますので、困った時の参考書として読むのが良いかもしれません。本書の対処で難しい場合、「措置入院」「医療保護入院」の話がでてきましたが、まずは介護保険サービスでヘルパー、デイサービス、ショートステイの利用を検討し、更に難しい場合は病院での薬物治療や精神療法の選択になります。現代は個人で抱える時代から地域で支える時代になっていますので、困った時は担当ケアマネージャーもしくは病院の地域医療連携室に相談するようお願いします。