高齢者・認知症者の下部尿路機能障害(過活動膀胱)の要点

過活動膀胱

 高齢者・認知症者の排尿障害は切迫性尿失禁・頻尿などの過活動膀胱(OAB)症状が多いです。フレイルとも関連し、OABのリスクとなっています。個々の病態を把握し、非薬物治療から始めることが推奨されます。薬物治療は抗コリン薬が高齢者では認知症のリスクになるため、β作動薬がすすめられています。今回、高齢者・認知症者の排尿障害の要点を紹介します。

下部尿路機能障害(LUTS)とは

  • 蓄尿症状:刺激症状→頻尿・尿失禁
  • 尿排出症状:閉塞症状→排尿困難
  • 排尿後症状:残尿感・排尿後尿滴下
蓄尿症状尿排出症状排尿後症状
尿意切迫感尿勢低下排尿後尿滴下
頻尿尿線分割、尿線散乱残尿感
夜間頻尿尿線途絶 
切迫性尿失禁排尿遅延 
その他の尿失禁腹圧排尿 
 終末滴下 

※過活動性膀胱:尿意切迫感、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁

原因

膀胱

  • 過活動膀胱
  • 膀胱炎
  • 間質性膀胱炎
  • 膀胱がんなど

前立腺(男性のみ)

  • 前立腺肥大症
  • 前立腺炎
  • 前立腺がん

その他

  • 尿路結石
  • 尿道炎
  • 生活習慣病(糖尿病など)
  • 精神的要因
  • 服用中の薬など

過活動膀胱(OAB)の定義

  • 尿意切迫感を必須とした症状症候群
  • 通常は頻尿と夜間頻尿を伴う
  • 切迫性尿失禁は必須ではない

過活動膀胱症状質問表(OABSS)

質問症状点数頻度
1朝起きたときから寝るまでに何回くらい尿をしましたか0
1
2
7回以下
8-14回
15回以上
2夜寝てから朝起きるまでに何回くらい尿をしましたか0
1
2
3
0回
1回
2回
3回
3急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか0
1
2
3
4
5
なし
週に1回より少ない
週に1回以上
1日1回くらい
1日2-4回
1日5回以上
4急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか0
1
2
3
4
5
なし
週に1回より少ない
週に1回以上
1日1回くらい
1日2-4回
1日5回以上

過活動性膀胱の診断基準

質問3の尿意切迫感スコアが2点以上かつOABSSが3点以上

  • 軽症:5点以下
  • 中等症:6-11点
  • 重症:12点以上

OABの疫学

 40歳以上のOAB有病率:14.1%

高齢者におけるOAB診療の問題点

  • 加齢の伴う副作用の発生頻度の増加(口内乾燥、便秘、低活動性膀胱)
  • フレイルとサルコペニアはOABのリスクとなる→OABは転倒・骨折リスクにも関連する
  • 認知症
  • 多剤併用(抗コリン負荷)

OABの治療薬

抗コリン薬

  • オキシブチニン(ポラキス®):1回2-3mgを1日3回経口服用(推奨レベル グレードB)
  • オキシブチニン経皮吸収型製剤:貼付剤1枚(7.35mg/枚)を1日1回1枚。下腹部・腰部または大腿部のいずれかに貼付(グレードA)
  • プロピベリン(バップフォー®):20mgを1日1回経口服用。20mgを1日2回まで増量可(グレードA)
  • トルテロジン(デトルシトール®):4mgを1日1回経口服用(グレードA)
  • フェソテロジン(トビエース®):4mgを1日1回経口服用。1日8mgまで増量可(グレードA)
  • ソリフェナシン(ベシケア®):5mgを1日1回経口服用。1日10mgまで増量可(グレードA)
  • イミダフェナシン(ウリトス®):0.1mgを1日2回経口服用。1回0.4mgまで増量可(グレードA)

βアドレナリン受容体作動薬

  • ミラベグロン(ベタニス®):50mgを1日1回経口服用(グレードA)
  • ビベグロン(ベオーバ®):50mgを1日1回経口服用(グレードA)

その他の薬剤

  • フラボキサート(ブラダロン®):1回200mgを1日3回経口服用(グレードC1)
  • 牛車腎気丸:1日7.5g 2-3回分割投与(グレードC1)
  • エストロゲン(グレードC1)

75歳以上の高齢者で慎重な投与を要する薬物

  • ソリフェナシン、トルテロジン、フェソテロジン、イミダフェナシン、プロピベリン、オキシブチニン経皮吸収型
  • 口渇・便秘の他に中枢神経系への有害事象として認知機能低下やせん妄などを引き起こすことがある

フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン2021

フレイル、認知機能と下部尿路機能障害の関係

  • 男性高齢者では下部尿路症状が重度になるにしたがい、フレイル有症率は増加する(エビデンスレベルE-2)
  • 過活動膀胱とフレイルの関連が示唆される(E-2)
  • フレイル高齢者の下部尿路症状全般と、疲労感および活動量低下が関連し、蓄尿症状とは筋力低下および身体機能低下が、排尿症状とは疲労感および活動量低下が関連する可能性がある(E-2)
  • 認知症と下部尿路症状とは有意な関連があり、重度な尿失禁は認知機能低下と関連する(E-2)
  • アルツハイマー型認知症の下部尿路症状、特に過活動膀胱症状は、MMSEなどで評価される認知機能の程度とは有意な関係にないが、Clinical Dementia Rating scoreと有意な関係を認める(E-2)
  • 認知機能低下高齢者では、深部白質病変、前頭葉機能の低下ならびにアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の使用が下部尿路症状と関連する可能性がある(E-2)

フレイル高齢者、認知機能低下高齢者に合併しやすい下部尿路症状の種類は何か?

  • フレイルは、尿意切迫症状や頻尿などの蓄尿症状だけでなく、残尿や尿勢低下などの排尿症状も合併する(E-2)
  • 認知症に伴う下部尿路症状は、切迫性尿失禁・頻尿などの過活動膀胱症状が主に合併する症状である(E-2)
  • 認知症では、アルツハイマー型認知症に比べ、レビー小体型認知症で下部尿路症状、特に蓄尿症状が発症早期から出現し、さらに発症率も高い(E-1b)
  • 特発性正常圧水頭症では90%以上に尿失禁が合併している(E-2)

フレイル高齢者、認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対して、どのような生活指導が推奨されるか?

  • 適正な飲水指導、バランスのとれた食生活、運動、便秘の改善、適正な塩分摂取、アルコール・カフェイン制限が生活指導として推奨される(エビデンスレベル 4、推奨レベルA)
  • 減量は、一般的に尿失禁などの下部尿路機能障害に対して推奨されているが、フレイル高齢者、認知機能低下高齢者においては不適切な場合があり、個々の患者特性により減量の可否を考慮する(エビデンスレベル 4、推奨度レベルB)

フレイル高齢者、認知機能低下高齢者の前立腺肥大の治療には、どのような薬剤が推奨されるか?

  • 前立腺肥大症を有するフレイル高齢者、認知機能低下高齢者に対する治療薬は、「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」に従って選択することが推奨される(エビデンスレベル1、推奨レベルA)
  • 初期治療薬としては、サブタイプ選択性の交感神経α1遮断薬、あるいはホスホジエステラーゼ5阻害薬を投与し、初期治療の効果が不良な場合は、前立腺サイズが大きい症例には5α還元酵素阻害薬を追加投与し、過活動膀胱症状が残存する症例には交感神経β3作動薬、あるいは抗コリン薬を追加投与することが推奨される(エビデンスレベル1、推奨レベルA)

フレイル高齢者、認知機能低下高齢者の過活動膀胱の治療にどのような薬剤が推奨されるか?

  • フレイル高齢者、軽度認知機能低下高齢者の過活動膀胱の薬物治療には、抗コリン薬、あるいは交感神経β作動薬の投与が推奨される(エビデンスレベル1、推奨レベルA)
  • 明らかな認知機能障害を有する高齢者、あるいは他疾患に対して抗コリン作用を有する薬剤を服用している高齢者、および男性患者では、β作動薬を優先することが望ましい(エビデンスレベル4、推奨レベルB)
  • 抗コリン薬のなかで経口オキシブチニンは脳血管関門を通過し、認知機能障害を起こすことが報告されており、使用を避けるよう推奨される(エビデンスレベル2、推奨レベルA)
  • 前立腺肥大症に合併した過活動膀胱を有するフレイル高齢者、認知機能低下高齢者に対しては、受容体サブタイプ選択性の交感神経α遮断薬、あるいはホスホジエステラーゼ5阻害薬の投与を優先することが推奨される(エビデンスベル1、推奨レベルA)

フレイル高齢者、認知機能低下高齢者における夜間頻尿に対して、どのような対処法が推奨されるか?

  • 夜間頻尿の病因は、夜間多尿、多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害に分けられるが、対処においては、正確な病態を把握して対処法を選択することが推奨される
  • フレイル高齢者、認知機能低下高齢者における夜間頻尿に特化した対処法に関するエビデンスはほとんどないため、「夜間頻尿診療ガイドライン第2版」に沿った対処法が推奨される
  • フレイル高齢者や認知機能低下高齢者の夜間頻尿の対処にあたっては、成人や一般高齢者に比べて、加齢による臓器予備能の低下による薬物動態の変化や服用率の低下、誤服用が起こりやすいため、薬物治療においては用量の調節や副作用の監視などへの注意が必要であり、非薬物治療から開始することが推奨される(エビデンスレベル4、推奨レベルA)

夜間頻尿における行動療法の重要性

  • 飲水に関する指導(推奨グレードA)
  • 塩分制限(グレードB)
  • 食事(グレードB)
  • 運動療法(散歩、ダンベル運動、スクワットなど)(グレードB)
  • 禁煙(グレードC1)
  • 統合的生活指導(グレードB)
  • 神経変調療法など(保険適応外)

その他

  • 下肢を挙上した30分以内の昼寝
  • 日光浴
  • 弾性ストッキングの使用
  • 利尿薬服薬時間の変更(昼に服用)

 その他の治療法に対するRCTの報告はない