高齢者の感染症の特徴まとめ

高齢者の感染症

 高齢者の感染症は、加齢による生理的変化のため、水溶性薬物は血中濃度が増加しやすく、脂溶性薬物は血中濃度の低下と蓄積増加で半減期が延長しやすいです。肺炎は誤嚥性肺炎が多く、発熱・咳などの典型症状が伴わないこともあります。今回、高齢者の感染症の特徴をまとめました。

高齢者の生理的変化

  • 嚥下機能の低下→誤嚥性肺炎
  • 咳反射の低下→誤嚥性肺炎
  • 皮膚の脆弱化・皮膚創傷治癒の遅延→皮膚・軟部組織感染症
  • 胃の酸度低下→肺炎、C. difficile感染症(CDI)
  • 認知障害→症状の非定型化
  • 免疫能の低下:細胞性免疫能の低下→結核・帯状疱疹

薬物代謝にかかわる高齢者の生理的変化

  • 吸収:減少
  • 分布:体内水分量の減少、脂肪量の増加
    •  水溶性薬物:血中濃度の増加
    •  脂溶性薬物:血中濃度は低下、蓄積増で消失半減期延長
  • 代謝:肝臓での代謝機能の低下
  • 排泄:腎機能の低下、筋肉量の低下(クレアチニン産生量の低下)
    •  腎排泄型薬剤の投与量調節
    •  血清クレアチニン濃度の見かけ上の低下

高齢者の免疫学的変化

  • Immunosenescence(免疫老化):細胞性免疫能の低下、B細胞機能低下
  • Inflam-Aging(加齢による炎症反応増加)過剰で起こる病気:癌、心血管性疾患、神経変性疾患など

慢性疾患の影響

  • 神経因性膀胱、前立腺肥大→尿路感染症
  • 末梢血管障害、うっ血性心不全→皮膚・軟部組織感染症
  • COPD→下気道感染症
  • 運動機能障害(車椅子、寝たきり)→褥瘡感染
  • カテーテルなどのデバイス留置→デバイス関連感染症

ポリファーマシー

 単に服用薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態

薬物相互作用

吸収・代謝・排泄の変化

  • カルバペネム vs バルプロ酸 作用減弱(黄線の薬剤)
  • フルオロキノロン vs Mg, Alを含む制酸剤 吸収↓
  • ペニシリン系 vs プロベネシド 排泄↓、血中濃度↑
  • マクロライド系:CYP3A4と結合→併用薬剤血中濃度↑(テオフィリン、ワルファリン、スルホニルウレア、ジゴキシン、カルバマゼピン)
  • トリアゾール系抗真菌薬:CYP3A4, 2C9, 2C19阻害→併用薬剤血中濃度↑(トリアゾラム、ジアゼパム、エルゴタミン、タクロリムス、シクロスポリン、スルホニルウレア、経口避妊薬など)
  • リファンピシン:CYP2B6, 2C8, 2C9, 2C19, 3A4を誘導→併用薬剤の活性↓(ステロイド、ワルファリン、シクロスポリンなど)

副作用の増強

  • フルオロキノロン vs NSAIDs 痙攣などの中枢神経障害
  • フルオロキノロン vs クラスIA, IIIの抗不整脈薬 QT延長
  • リネゾリド vs モノアミン酸化酵素阻害剤、アドレナリン作動薬 血圧上昇・動悸
  • リネゾリド vs セロトニン作動薬 セロトニン症候群
  • アミノグリコシド系 vs 腎障害のある薬剤 腎障害
  • アミノグリコシド系 vs 筋弛緩薬 呼吸抑制

高齢者の感染症の特徴

  • 生理機能・認知機能が低下しているため症状の訴えが少ない→診断の遅れ
  • 意識障害・転倒・食欲低下など非特異的症状が多い
  • 免疫能低下のため症状が出現した時点で病勢が進行していることもある→重症化
  • 基礎疾患の悪化が目立つ
  • 基礎疾患が増悪するため、感染症治療後も速やかに全身状態が改善するとは限らない→抗菌薬治療が長引く
  • 様々な介助者や介護者が密接にケア→感染対策が困難

主な感染臓器と病原微生物

  • 呼吸器感染症:肺炎球菌・インフルエンザ菌・クレブシエラ・モラキセラ・カタラーリス・黄色ブドウ球菌・マイコプラズマ・レジオネラなど
  • 尿路系感染症:大腸菌・クレブシエラ・エンテロバクター・プロテウスなど
  • 皮膚軟部組織感染症:ブドウ球菌・連鎖球菌・グラム陰性菌
  • 髄膜炎:肺炎球菌など
  • 耳鼻科系感染症:肺炎球菌・インフルエンザ菌
  • 心内膜炎:緑色連鎖球菌・腸球菌・ブドウ球菌など
  • 肝胆道系感染症:大腸菌・クレブシエラなど
  • 腸管感染症:大腸菌・サルモネラ・カンピロバクターなど

高齢者の肺炎

  • 非典型的な症状
    •  発熱・咳・痰の増加が揃わない
    •  意識障害・食欲不振など非特異的な症状
  • 誤嚥性肺炎が多い(再発性)

肺炎診療の難しさ

  • 検査が難しい
    •  喀痰:質が大切
    •  気管支鏡:侵襲が大きい
  • 検査結果の判定が難しい
    •  検体に雑菌が混じる
    •  起炎菌かどうかの判定が難しい
  • 鑑別では結核をいつも疑う:1回の塗抹検査陰性で結核の排菌は否定できない(3連痰を行う)。良い痰がとれないときは胃液検査も行う。
  • 治療が難しい
  • 生命予後に影響大

高齢者の抗菌薬投与の注意点

  • 高齢者だから減量は必要か?→No
  • 腎・肝機能を考慮した十分量を最初から投与する
    •  中途半端な使用は避ける
  • 副作用に注意

Cockcroft-Gaultの式(女性では✕0.85)

 クレアチニンクリアランス=[(140-年齢)✕体重(kg)]/[血清クレアチニン値(mg/dl)✕72]

腎機能による調整が不要な抗菌薬

  • セフトリアキソン
  • ミノサイクリン
  • ミカファンギン
  • クリンダマイシン
  • クロラムフェニコール
  • カスポファンギン
  • アジスロマイシン
  • イネゾリド

キノロン系抗菌薬の長所

  • DNA複製阻害による抗菌効果→殺菌性薬剤
  • 作用酵素が細菌特異的→副作用少
  • 作用酵素が細菌普遍的→幅広い活性
  • Bioavailability・組織移行性が良い→内服=静注
  • 半減期が長い
  • 効果がAUC/MIC(濃度依存性)で規定
  • 比較的長いPAEを有する(血中濃度が下がっても長い抗菌効果を維持する):1日1回投与可

キノロン系抗菌薬の短所

  • 筋骨格系:小児→軟骨形成障害 ○NFLZ TFLX、成人→腱炎 
  • 消化器系:嘔気・嘔吐・肝機能障害、C. difficile infection(CDI)
  • 内分泌系:血糖調節障害(低血糖・高血糖)☓GFLX
  • 循環器系:心筋伝導障害(QT延長) ☓MFLX
  • 皮膚:光過敏症 ☓SPFX
  • 中枢神経系:けいれん・せん妄 ☓with NSAIDs

キノロン系抗菌薬の適正使用

 強く使用を推奨するもの

  • β-ラクタムに重症のI型アレルギーがある患者
    •  グラム陰性菌をカバーする薬剤として使用必要
  • 非定型病原体(特にレジオネラ)が疑われる肺炎
    •  水への曝露、意識障害、低ナトリウム血漿、CK上昇、肝障害
    •  マクロライドと比べ解熱・症状改善が有意に早い
  • 抗菌薬投与の適応がある細菌性腸炎
    •  免疫抑制、発熱+血便または便白血球陽性、旅行者下痢症
    •  サルモネラの排出期間を短縮

 強く非推奨

  • 微生物検査が未提出の場合
    •  耐性で治療を外すリスクあり
  • 肺炎で肺結核が否定できない場合
    •  診断が遅れるリスクあり
  • グラム陽性菌感染症
    •  Staphylococcus aureus, Streptococcus agalactiae→キノロン耐性度が比較的高い
    •  皮膚科・整形外科領域では原則不適当