遺伝性痙性対麻痺は、緩徐進行性の下肢痙縮と筋力低下を主徴とする神経変性疾患で、小胞体を中心とした細胞内輸送の障害が病態の主体です。現在、SPG1~83の病型が知られ、症状からは純粋型と複合型に分類されます。根本治療はなく、筋弛緩薬による対症療法が中心です。今回、遺伝性痙性対麻痺の要点を紹介します。
遺伝性痙性対麻痺(Hereditary spastic paraplegia:HSP)とは
緩徐進行性の下肢痙縮と筋力低下を主徴とする神経変性疾患
頻度:0.2-10人/10万人
遺伝形式
現時点で、SPG 1~83までの病型が知られている
- 常染色体優性遺伝(AD):SPG3A(ATL1), SPG4(SPAST), SPG31(REEP1), SPG80(UBAP1)など
- 常染色体劣性遺伝(AR):SPG11(SPG11)など
- X連鎖劣性遺伝(XR):SPG1(L1CAM)など
- ミトコンドリア遺伝
臨床症状での分類
- 純粋型:振動覚低下、膀胱直腸障害、上肢腱反射亢進を伴うことあり
- 複合型:末梢神経障害(SPG3A)、小脳失調(SPG4)、脳梁の菲薄化(SPG11)、白質病変(SPG5, SPG7)、下位運動ニューロン障害(SPG10, SPG11, SPG17)、網膜色素変性症、精神発達遅滞、認知機能障害、パーキンソニズム、骨格異常、筋萎縮、聴覚障害、てんかんなどを伴う
病態
小胞体を中心とした細胞内輸送の障害が病態の主体である。ミエリン形成・軸索誘導・ミトコンドリア機能などの障害も関わる。臨床症状との関連についてはまだ不明である。
- 軸索輸送の障害
- 小胞体の形態異常
- ミトコンドリア機能障害
- オリゴデンドロサイトの機能異常によるミエリン形成の異常
- タンパク質の立体構造異常による小胞体ストレス
- 錐体路と他の神経系の発達障害
- 小胞形成の異常と膜輸送(タンパク質の選択的アップテイク)の障害
- 脂質代謝の障害(リン脂質、スフィンゴ脂質、脂肪酸)
治療
現時点で根治的な治療はない。対症療法が中心となる。
筋弛緩薬
- 中枢性筋弛緩薬:チザニジン(テルネリン®)、バクロフェン(ギャバロン®)、ジアゼパム(セルシン®)、クロナゼパム(リボトリール®)
- 末梢性筋弛緩薬:ダントロレンナトリウム(ダントリウム®)
その他の治療
少数例の二重盲検プラセボ対照比較試験(有意な効果は確認できず)
- ガバペンチン:SPG4に対して使用
- スタチン:SPG5に対して使用
少数例報告レベル
- 脂質異常症治療薬(スタチン、エゼチミブなど):SPG5に対して使用
- L-dopa, Progabide, Dalfampridine, L-スレオニン, メチルフェニデート
非内服治療
- ボツリヌス毒素筋注
- モーターポイントブロック(フェノールブロック)
- バクロフェン持続髄注療法(ITB療法)
- 選択的脊髄後根切断術(SDR)、末梢神経縮小術、腱延長術
- 下肢装着型補助ロボットスーツ HAL®