認知症でみられる幻覚・妄想の種類と対応法まとめ

幻覚妄想

 幻覚・妄想は、認知症の人と接する時に、人間関係が破綻するリスクのある行動・心理症状(BPSD)です。幻覚・妄想は認知症の種類によって特徴が異なります。アルツハイマー型認知症(AD)は物盗られ妄想など記憶障害を代用する妄想が多く、レビー小体型認知症(DLB)はカプグラ症候群や幻の同居人など幻視から派生する妄想が多い傾向です。血管性認知症(VaD)は障害部位によって出現する妄想が異なり、脳脚幻覚症(夕方になると動物が見える。中脳~橋被蓋が病巣)や要素性幻覚(光や地図の模様が見える、後頭葉が病巣)が代表的です。

幻覚

 認知症で最も多いのは幻視DLB(約80%)>AD(19%)。次に多いのは幻聴。頻度はDLB>AD。DLBは鮮やかな色付きの幻視であることが特徴的。アルコールによる幻視は小動物・虫が見えることが多いです。夕方になり暗くなると、影を見間違えるなど高齢者は錯覚を起こしやすくなります。視力低下、難聴が誘引になることもあります。

 幻覚は本人が受け入れていれば基本的に介入しませんが、動揺している場合は妄想に移行することがあるため治療を開始します。

妄想

 DLB>AD>VaDの順で多いです。妄想で最も多いのは物盗られ妄想。代表的な妄想は以下の通りです。

1.関係妄想群

  • 物盗られ妄想:自分のお金や財布が盗まれた。盗んだ対象は身近に接している家族になることが多い。「妻が自分の通帳やお金を盗んで勝手に使っている」。AD、DLB
  • 嫉妬妄想:事実でないにもかかわらず配偶者を疑う。「夫が隣に住んでいる女性と浮気している」「妻が出かけるのは愛人と会っているからだ」。DLB、AD、VaD
  • 見捨てられ妄想:自分が家族から捨てられたと思い込み、介護者を攻撃する、周囲に触れ回る。施設入所や入院時に増悪しやすい。AD、DLB

2.人物誤認症候群

  • カプグラ症候群(Capgras syndrome):自分の身近な人(家族など)が、そっくりの他人にすり替えられている。「夫が偽物である」。DLB、AD
  • フレゴリの錯覚(Fregoli delusion):第三者を見た時に別の他者(大抵は特定の人物)の変装であると思い込む。自分を攻撃してくる、誘惑してくるなどの妄想を伴う。「隣に座っている人は、夫が変装して見張っている」。AD、DLB
  • 幻の同居人:家の中に人が入り込んでいる、家に住んで悪さをしている。「天井裏に誰かが住んで悪さをする」。DLB、AD
  • 鏡徴候(mirror sign):鏡に映った自分を他人と思い込む。鏡の自分と会話する。AD
  • テレビ徴候:テレビの映像を現実と思い込み、話しかける、怒鳴りつける。AD
  • 重複記憶錯誤:同じ人物や場所が2つ以上存在している。「妻が2人いて、もう1つの自宅に住んでいる」。DLB、AD、VaD

幻覚の治療

1.非薬物対応

  1. 暗い場所で起こりやすい場合は部屋を明るくする
  2. 薬剤の影響がないかを確認する。睡眠薬や抗不安薬の急な中断で起こることがある。幻覚を起こす抗パーキンソン病薬、抗精神病薬が追加されていないかを調べる。
  3. 眼鏡や補聴器を調整する。
  4. 幻視の体験を繰り返して対象が幻視であると受け入れていれば治療はしなくても日常生活を送ることができる
  5. 目を開ける、閉じるを繰り返す。視線を他に向けさせる。
  6. テレビ・ラジオの音が幻聴を誘発することがあるが、逆に別の音(てレビの音など)を聞かせることで消えることもある。
  7. 不安や恐怖を起こす原因を取り除くことで消えることがある。
  8. 傾聴し否定も肯定もせず受け入れることで安心感を抱かせる。

2.薬物治療

  1. 焦燥感・興奮を伴うときは抗精神病薬を使用する(リスペリドン(リスパダール®)クエチアピン(セロクエル®)ハロペリドール(セレネース®)など)。ただしDLBは過鎮静を起こすリスクあり。
  2. DLBの場合は、幻視に対してコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)がエビデンスは低いが有効との報告がある。
  3. 睡眠障害で悪化している場合は、スボレキサント(ベルソムラ®)ラメルテオン(ロゼレム®)を試す。

妄想の治療

1.非薬物治療

  1. 物盗られ妄想の場合は「盗まれたこと」を否定せず一緒に探す。見つけやすい環境にする。
  2. 興味を別の話題に向け、注意をそらせる。
  3. 最初に共感の態度を見せる。「いろいろ腹が立つこともあるでしょう」「よく分かります。困りますね」→損得勘定に訴える。「でも今焦って騒ぐと自分が悪者にされてしまいますよ」「私だったら無視します。相手と同じレベルになるから」。感情障害の強い人には逆効果になる場合があるので注意。
  4. 妄想の対応は非常に難しいためうまくいかなくても自分自身を責めない。距離をとること(入院や入所)になっても罪悪感を持たない。周りと一緒に取り組んでいくと割り切ってしまう。

2.薬物治療

  1. 焦燥・興奮を伴うときは抗精神病薬(リスペリドンクエチアピンハロペリドール)を試す。DLBは逆に悪化する場合があるので注意。
  2. DLBは抑肝散が有効という報告あり。
  3. 妄想により日常生活が継続できない場合は早めに精神神経科の介入が必要。

以下の記事も参考にしてください

幻視の特徴・病因まとめ

徘徊・物盗られ妄想など認知症で困る行動(BPSD)について認知症専門医が行っているアドバイスを解説します

認知症、せん妄に用いる治療薬一覧