前頭側頭型認知症の治療まとめ

前頭側頭型認知症

 前頭側頭型認知症(FTD)は人格障害や反社会的行動、言語障害を特徴とする神経変性疾患です。発症年齢は50歳代後半から60歳代前半と比較的若く、予後は8-10年と短いのが特徴です。現在のところFTDの治療は、SSRIが行動障害に対して有効との報告はありますが、根本治療はなく、非薬物的介入が主体となっています。本記事では前頭側頭型認知症の治療をまとめました。

要旨

  • 前頭側頭型認知症(FTD)には、現在のところ有効な根本治療法はない。前頭側頭型認知症(FTD)の症状改善には、薬物的介入と非薬物的介入があり、特に行動症状の改善を目的としている。
  • 非薬物的介入はFTD患者の治療の重要な側面であり、運動プログラム、家庭環境の改善、管理の強化、身体療法、作業療法、言語療法、行動修正、介護者のサポート、レスパイトなどが含まれる。
  • コリンエステラーゼ阻害薬は、FTD患者における有益性のある証拠がなく、診断上の不確実性があり、アルツハイマー病(AD)の診断がFTDと同様に可能性が高いと思われる場合を除いては、治療の選択に入らない。
  • 神経行動障害が出現または悪化した場合には、せん妄、疼痛、不快感などを原因とする可能性を考慮した上で、薬物療法を開始すべきである。
  • FTD患者は、逆説的奇異反応、錐体外路性副作用、錯乱、鎮静などの薬物の副作用を受けやすい。薬物は投与可能な最低量から始め、ゆっくりと用量を漸増し、副作用の有無を頻回に観察することが推奨される。また、定期的に薬の再評価を行い、休薬にも配慮する。
  • 非薬物的介入にもかかわらず、FTDの神経行動症状が問題となっている患者に対しては、セロトニン再取り込み阻害薬(例:シタロプラム(日本ではエスシタロプラム)10~20mgを1日1回)またはトラゾドン(レスリン®、25mgを1日1回)の治療を行うことを推奨する(グレード2C)。
  • その他の治療法としては、非定型抗精神病薬を使用することもある。ただし、FTD患者は錐体外路系の副作用を注意深く観察する必要がある。このため、他の抗精神病薬に比べて錐体外路性副作用の報告が少ない低用量のクエチアピン(セロクエル®、12.5~25mg)を使用する。米国食品医薬品局(FDA)は、有害事象や死亡率の増加リスクを理由に、認知症におけるすべての抗精神病薬に対して非推奨の警告を出しており、これらの薬を使用する場合には、家族にリスクについて説明する必要がある。

前頭側頭型認知症の特徴

 前頭側頭型認知症(FTD)は、前頭葉および/または側頭葉の局所的な変性によって特徴づけられる変性疾患である。発症年齢は50歳代後半から60歳代前半である。初期の臨床症状は、人格障害や反社会的行動、言語障害があり、時間の経過とともに他の認知機能にも影響を及ぼす認知症へと進行する。また、一部の患者では、病気の経過中に錐体外路症状や運動ニューロン症状を示すこともある。

 現在、米国食品医薬品局(FDA)が承認しているFTDの疾患修飾治療法はない。FTDの基礎疾患は通常、タウまたはTDP-43蛋白の凝集体であるため、アルツハイマー病(AD)で期待されているβアミロイド(Aβ)の減少を目的とした治療法はFTDでは有効ではないと考えられる。

 症状の緩和には様々な薬剤が用いられる。しかし、これらの薬剤はFTDに対するFDAの承認を受けておらず、有効性のエビデンスも限られている。これらの薬物は、患者の生活環境を十分に評価するなど、非薬物的介入と併用して検討すべきである。本記事では、FTD患者に特徴的な治療及び問題点についてまとめた。

非薬物的介入

 非薬物的介入は、行動の管理に加えて、健康の維持と安全性に焦点を当てている。非薬物的治療には、介護者との強力な協力関係が必要である。

安全性と運転

 行動の変容や衝動性が顕著であるため、FTDの初期段階では安全性が懸念される。患者はしばしば、判断力の低下による重大な事故からの保護を必要とする。経済的意思決定の支援、早期退職、運転の安全性を評価し、初回の診察で話し合うべきである。米国神経学会(American Academy of Neurology)が発表した治療ガイドラインは、運転の安全性および運転の中止に関するいくつかのガイドラインを提供している。FTD患者は社会的な線引きが困難であるため、子どもなど他者がいる場合には、この点を考慮する必要がある。患者が自分自身や他者に対して危険な行動をとる場合には、身体的な管理が必要になる。

運動と移動

 認知症患者の健康と認知機能の向上のために、定期的な有酸素運動が推奨される。運動プログラムは認知症患者の気分と認知の両方に効果があることが実証されており、その重要性は過小評価されるべきではない。

 FTD患者、特にパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)が顕著な患者では、経過の後半で移動が問題となる。理学療法は身体バランスを整え、身体活動を維持するのに役立つ。高めの便座、室内便器、固定されていない敷物の除去などの物理的補助は、家庭内での怪我の可能性を減らすのに役立つ。

言語療法

 言語療法およびコミュニケーション補助具の使用は、意味性失語や非流暢性の原発性進行性失語症の患者では、初期の段階で有益な場合がある。経過の後半では、誤嚥を防ぐために嚥下評価が重要である。

行動修正

 非薬物的な行動修正技術は、FTDの問題行動の管理において有用な補助手段となりうる。行動モニタリングの履歴は、回避または管理できる誘因を特定するのに役立つかもしれない。気晴らし、方向転換、簡単な選択肢の提供は、脱抑制、強迫的な習慣や儀式、焦燥感、不安感に対する薬物療法に代わる効果的な方法であるが、介護者の教育とサポートが必要である。過剰な刺激を避ける構造化された環境は、患者に安定性と予測可能性を提供できる。奨励すべき行動のための環境的手がかり(例:衣類の敷き詰め、セルフケアのための道具)を提供し、抑制すべき行動のための環境的手がかり(例:車の鍵)を取り除くこともまた、一部の患者には有用である。

 介護者のストレスはFTDでは大きな問題である。レスパイトケアやサポートグループはほとんどの地域で利用可能であり、多くの場合、地域の高齢化支援機関を通じて利用できる。

薬物的介入

 FTDにおける薬物的治療は対症療法であり、神経行動症状の緩和を目的としている。行動症状に対して薬物療法が一般的に使用されているにもかかわらず、FTDにおける薬物的治療の有効性に関する証拠は限られている。

神経伝達物質系

 FTDの神経化学的基礎はまだ完全に解明されていない。それにもかかわらず、特定の神経伝達物質系に問題があることが研究で指摘されている。

 セロトニン活性の異常は、FTD患者の剖検、神経画像検査、脳脊髄液検査で実証されている。さらに、セロトニン機能障害は、FTDによく見られる行動障害の多くと関連している。しかし、これらの関連性は、ほとんどの場合、FTD患者集団ではなく、非健常者で行われている。

 ドーパミン作動性機能もFTD患者では変化することがあり、通常は錐体外路性運動症状の重症度に比例して変化する。しかし、ある研究では、ドーパミン作動性神経伝達の活性の増加とセロトニン作動性調節の変化が、それぞれ興奮行動と攻撃的行動に関連していることが判明している。

 コリン作動系は、アルツハイマー病(AD)とは対照的に、FTDでは比較的温存されているようである。

認知機能障害

 FTD患者の認知機能障害を改善または安定化させる薬剤はまだ実証されていない。

 これまでのデータでは、FTDにおけるコリンエステラーゼ阻害薬の使用は支持されていない。唯一の例外は、患者がFTDなのかADなのかが明らかでない場合である。

 FTD患者を対象としたガランタミンの8週間のプラセボ対照試験では、原発性進行性失語症患者のサブグループでは有益な傾向が示唆されたが、行動変容型FTD(bvFTD)患者では有益な傾向は示されなかった。リバスチグミンの非盲検試験では、Mini-Mental State Examinationでの実行機能測定値は治療の有効性が認められたが、全般的な認知力の測定値では有効性は認められなかった。ドネペジルの非盲検試験試験では、認知機能の指標では治療の有効性は認められず、一部の患者では行動が悪化していた。最近の研究では、これらの結果を再現し、ドネペジルの投与中止により行動症状が改善することもあることが示されている。

行動の変容

治療前の留意点

 行動障害には可変性があり、社会的に不適切な行動、無気力(アパシー)や惰性、焦燥感、ため込みや異常な摂食行動として現れる強迫観念などがある。

 行動症状はbvFTDで早期に出現するが、他のサブタイプのFTD(意味性および非流暢性の原発性進行性失語症)でも問題となることがあり、FTD患者の介護負担に大きく関係する。これらは治療が非常に困難な場合がある。

 神経行動的な問題が出現または悪化した場合、臨床医は治療を開始する前に、せん妄、疼痛、または不快感の可能性を症状の原因として考慮すべきである。

 FTD患者は、行動障害の治療に使用される薬物(抗不安薬や抗精神病薬など)の副作用の影響を受けやすい。これらの副作用には、逆説的行動反応、錐体外路性副作用、錯乱、および鎮静が含まれる。これらの影響を軽減するために、最低用量から開始し、用量をゆっくりと漸増し、副作用を頻回にモニターする。最初の試行は、セロトニン作動性の薬物から始める。

 薬物は行動障害を悪化させる、動きや反応時間を遅くする、認知機能を低下させることがあるので、継続的に薬の役割を再評価し、FTD患者では薬の漸減を検討することが合理的である。

セロトニン作動性薬物療法

 FTDの問題行動を有する患者の初期薬物療法として、セロトニン再取り込み阻害薬(例えば、シタロプラム(日本ではエスシタロプラム)10~20mgを1日1回)またはトラゾドン(レスリン®、25mgを1日1回)の試行が提案されている。投与量は、症状の改善に応じて徐々に漸増することができ、または副作用によって制限されることもあるが、一般的には低く抑えられている。セロトニン作動性薬物の使用を支持する証拠は他のクラスの薬物よりも強い。しかし、この証拠はほとんどが対照臨床試験ではなく、非対照観察から得られたものである。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)から別の薬物を試す前に、効果があるかどうかを確認するために、ゆっくりと減量した後、数週間の時間を空けている。

 SSRI(例:セルトラリン(ジェイゾロフト®)、パロキセチン(パキシル®)、フルボキサミン(デプロメール®))は、FTD患者の症例報告および小規模な観察研究において、脱抑制、不安、衝動性、反復行動、および摂食障害を減少させることが報告されている。性的脱抑制を有する個々の患者はSSRIで治療され、成功を収めている。4人の患者の症例研究では、病的窃盗行動はSSRI治療では改善しなかった。

 16人の患者を対象とした非盲検ランダム化試験では、パロキセチン(1日20mgまで)とピラセタム(ミオカーム®、1日1200mgまで)が比較された。14ヵ月後にパロキセチンを投与した患者は、ピラセタムを投与した患者と比較して、行動症状の有意な改善と介護者のストレスの減少が認められた。対照的に、10人の患者を対象とした別の二重盲検ランダム化クロスオーバー試験では、パロキセチンを6週間投与しても、1日あたり40mgの用量に急増量しても、行動または実行機能の転帰の改善とは関連していないことが示された。bvFTD患者15人を対象としたシタロプラムの非盲検試験では、6週間にわたる行動症状の改善が示された。

 非定型セロトニン作動性抗うつ薬であるトラゾドンの低用量投与は、観察研究においてFTD患者の焦燥性興奮と攻撃性の治療に有効であることが報告されている。FTD患者26人を対象としたトラゾドンの二重盲検無作為化クロスオーバー試験では、プラセボと比較してトラゾドンで精神神経症状が有意に減少したことが明らかになった。治療の有益性は、過敏性、焦燥感、抑うつ症状、摂食障害で最も顕著であった。

その他の薬物療法

抗精神病薬

 非定型抗精神病薬(例:オランザピン(ジプレキサ®)、クエチアピン(セロクエル®)、アリピプラゾール(エビリファイ®))は、FTDにおける焦燥感やその他の神経行動症状に効果がある。しかし、副作用や死亡リスクの増加があるため、抗精神病薬は行動修正やSSRIを試した後の最後の手段と考えるべきである。米国では、脳血管イベントや死亡リスクの増加を理由に、認知症におけるすべての抗精神病薬の使用について、米国食品医薬品局(FDA)から警告されている。SSRIの複数の試験で行動症状が改善されない場合は、低用量のクエチアピン(例えば、12.5mgの開始用量)を追加し、必要に応じて、副作用を注意深く観察しながらゆっくりと漸増してもよい。

 ある症例研究では、FTD患者17人にオランザピン(1日2.5~10mg)を投与し、24ヵ月間追跡調査を行った。治療は、妄想やその他の神経行動症状の減少、および介護者のストレスの減少と関連していた。傾眠はほぼ3分の1に認められたが、用量を減らすことで管理できた。

 FTD患者は抗精神病薬の錐体外路性副作用に対して特に脆弱である。これらの薬物は細心の注意を払って使用すべきである。徐放性製剤、定型抗精神病薬、およびリスペリドン(リスパダール®)は避けるべきである。クエチアピンは他の抗精神病薬と比較して中等度のD2受容体拮抗作用を有する。したがって、錐体外路性の副作用は少ないかもしれない。

 抗精神病薬の使用は、認知症の高齢患者における死亡率の増加と関連していることを患者および家族に知らせるべきである。

刺激薬

 FTD患者における刺激薬の有用性を裏付ける臨床的証拠は非常に限られており、一般的には使用を控える。刺激薬は、患者によってはせん妄を誘発することがある。

 メチルフェニデート(リタリン®)などの刺激薬の使用の根拠は、FTDにみられるドーパミン作動性障害を改善し、その結果、行動変容、特にアパシーに影響を与える可能性がある。メチルフェニデートはドーパミンとノルエピネフリンのシナプスレベルを増加させる。

 症例報告と小規模な症例研究では、それぞれメチルフェニデートとデキストロアンフェタミンでアパシーと脱抑制の行動改善が報告されている。8人のFTD患者を対象にメチルフェニデート40mgを単回投与した二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験では、ケンブリッジ・ギャンブル・タスクで評価されたリスク行動の減少と治療が関連していることが判明した。

その他の薬剤

 メマンチンはFTD患者への使用は推奨されていない。初期の小規模非盲検試験では、メマンチンがFTD患者の行動障害を改善することが示唆されたが、2つの無作為化二重盲検試験ではこれらの知見は確認されなかった。bvFTD患者49人を対象とした1つの試験では、メマンチンまたはプラセボのいずれかを1年間投与したが、両群間の臨床的エンドポイントに差はなかった。さらに大規模な無作為化試験では、神経精神症状や臨床状態に変化は認められず、メマンチン投与群ではプラセボ投与群に比べて有害事象の頻度が高かった。

 抗けいれん薬(例:カルバマゼピン(テグレトール®)、バルプロ酸塩(デパケン®)、ラモトリギン(ラミクタール®))は、他の神経変性性認知症の神経行動症状の管理に使用されてきたが、有効性に関する説得力のある証拠はない。1例の報告では、アルコール乱用は改善したが、他の強迫行為は改善しなかったと報告されている。バルプロ酸塩療法によって焦燥性興奮や自己否定感が減少したという報告がある。

 FTDにおけるモノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬の使用に関するエビデンスは一貫性がない。セレギリン(エフピー®)はFTD患者3人の行動と注意力を改善した。別の報告では、モクロベミドを服用しているFTD患者6人が、抑うつ、攻撃性、発話、常同行動の改善を示した。

 不適切な性行動のある1人の患者では、エストロゲン(例:プレマリン)0.625mg/日が有効であるという報告がある。

 ベンゾジアゼピン系薬剤は、認知に悪影響を及ぼし、反対に動揺を引き起こす可能性があるため、FTDには推奨されない。

パーキンソン症状の対応

 パーキンソン病を有するFTD患者は、レボドパやアマンタジン(シンメトレル®)などのドーパミン作動性薬物には通常反応しないが、これらの薬物で一過性の運動改善がみられる患者もいる。精神病症状(幻覚・妄想など)および鮮明な夢を見る副作用が起こりうる。FTD患者はレボドパ-カルビドパの治療を開始しても良いが、この薬物に対する反応は最小限または一過性である場合がある。レボドパ-カルビドパに反応しない患者には、ドパミンアゴニストを検討してもよいが反応は乏しい。

将来のアプローチ

 FTDおよび関連疾患の治療に対する疾患修飾アプローチが進行中である。これらの実験的薬物には、抗タウ抗体、微小管安定化剤、タウ凝集およびアセチル化を阻害する薬物、FTD変異を標的とした薬物などがある。

予後

 FTDは発症年齢が若く、アルツハイマー病(AD)よりも急速に進行するようである。症状発症からの生存期間は約8~10年であり、行動変容型FTD(bvFTD)の患者では、原発性進行性失語症の患者よりも短いことが多い。運動ニューロン病を有するbvFTD患者は、疾患期間が最も短く約2年である。

緩和ケア

 認知症の末期には、患者とその介護者はさまざまな身体的・心理社会的ニーズに直面しており、効果的な緩和ケアは、患者の症状を改善し、介護者の負担を軽減し、患者と家族の目標やニーズに照らし合わせて、十分な情報を得て治療の決定を確実に行うのに役立つ。