抗認知症薬の効果と開始するタイミングを解説します

薬

 抗認知症薬のイメージを聞くと、効果を実感できない、逆に調子が悪くなったという意見を耳にします。結論から言いますと、抗認知症薬は認知症症状(物忘れなど)を改善するものではなく、認知症の進行を抑制する目的で使用します。そして薬の補助的な作用として、今までよりも活動的になった、不安定な感情が落ち着いたなどの効果がみられることもあります。薬全般に言えることですが、抗認知症薬には副作用があります。せっかく服用した薬も体に合わなければ継続できないことがあります。本記事では抗認知症薬から得られるメリットと副作用について解説します。抗認知症薬の知識を身につけてもらい、抗認知症薬を開始するか、あるいは継続・中止するかを判断する一助になれば幸いです。なお勝手にやめるのではなく、必ず主治医の先生と相談してから決断するようお願いします。

抗認知症薬に期待できる効果

抗認知症薬の効果はすでに検証され報告されています。要約したものを以下に掲載します。

  1. 認知機能障害の進行抑制
  2. 行動・心理症状(BPSD)の軽減
  3. 介護負担の軽減
  4. 介護施設入所の遅延
  5. ホームヘルパー利用時間の減少
  6. 生命予後の改善

 まず抗認知症薬で最も売りにしているのは、認知機能障害いわゆる物忘れの進行予防効果です。注意しなければならないのは認知機能障害の改善ではなく進行予防です。残念ながら認知症を治すことは現在できません。この話からすでに重度の認知症症状のある方への薬品効果は低いと捉えていただくのが良いでしょう。2番目は行動・心理症状(BPSD)の軽減です。BPSDとは、怒りっぽくなり暴言、暴力行為を起こす、意欲がなくなる、幻覚・妄想が出現する、徘徊するなど認知症に伴う異常行動、精神症状のことをさします。抗認知症薬は軽度のBPSD改善効果があります。意欲の低い方にはコリンエステラーゼ阻害薬、過活動気味の方にはメマンチンが効果的です。3番目~5番目はより実生活に関係する効果です。介護負担の軽減、介護施設入所の遅延、ホームヘルパー利用時間の減少効果があり、自立した生活の期間をのばすことができます。6番目は認知症による寝たきりになるまでの年齢を延長することで生命予後の改善を見込める報告があります。抗認知症薬を始めるまたは終了する判断は、これらの効果が期待できるかで決めてもらうのが良いと考えます。

抗認知症薬を始めるタイミング

 抗認知症薬の開始は、認知症症状により日常生活に支障が出始めた、介護負担が増えてきたときが良いタイミングになります。更に症状が重症でないことが条件になります。また認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)という概念がありますが、抗認知症薬投与によりMCIから認知症へ移行する予防効果については実証されていません。これは健常人が抗認知症薬を服用しても予防効果が得られないことを示唆しています。

 現在日本で使用できる抗認知症薬は以下の4種類です。

 作用機序の違いで2つに分けられ、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬があります。コリンエステラーゼ阻害薬はドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種があります。主な作用機序は脳の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑制し、大脳の神経伝達を促進させる効果があります。ドネペジルは最も早く発売された抗認知症薬です。ガランタミンは朝夕2回服用が必要、リバスチグミンは日本では貼付剤のみ発売されています。コリンエステラーゼ阻害薬同士は併用できません。コリンエステラーゼ阻害薬は意欲が低く、外出したがらない認知症者に適しています。

 NMDA受容体拮抗薬はメマンチンが発売されています。主な作用機序は神経細胞へのカルシウムイオンの流入を阻害して神経細胞死を抑制します。メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬と併用可能です。メマンチンは怒りっぽい、イライラしやすい過活動傾向の認知症者に用います。

抗認知症薬の副作用

 コリンエステラーゼ阻害薬は消化器症状の副作用が多く、投与開始時に食欲不振・悪心・嘔吐・腹痛・下痢などが起こりやすくなります。消化器症状は慣れてくる方もいますが、症状が継続する際は中止、他剤に変更することをオススメします。心疾患のある方は徐脈・失神・ペースメーカー装着の発症率が高くなります。特に洞不全症候群・房室接合部伝導障害の患者には注意が必要です。気管支喘息・閉塞性肺疾患のある方は症状悪化を来すことがあります。また詳細な機序は不明ですが、下部尿路閉塞、尿閉の報告があります。

 メマンチンの副作用は眠気です。まためまい、頭痛、食欲不振が1~5%の頻度で生じます。傾眠傾向のときは減量・中止を検討してください。2020年6月に完全房室ブロック、徐脈性不整脈の副作用が新たに追加されました。心疾患のある方は注意が必要です。

抗認知症薬をやめるタイミング

 抗認知症薬を終了するタイミングについて医療従事者、本人、家族にアンケートをとった報告があります。まず医療従事者が考える終了のタイミングは、歩けなくなった時、ベッド中心の生活になった時という回答が多い結果でした。患者本人は、笑えなくなった時を挙げています。感情表出ができなくなったときを人生の終焉と考えているのかもしれません。最後に家族は、命に関わる病気で余命が短いと判明したときとなっています。家族は認知症薬の服用も一番長く服用を希望している結果でした。3者でそれぞれ考えが異なることを考慮して、終了のタイミングを決める必要があります。実際の現場では、入院、転倒、認知機能やBPSDの悪化に伴って中止されています。易怒性など感情障害が強くなったときはコリンエステラーゼ阻害薬を、傾眠・意欲低下が強くなったときはメマンチンを終了しています。寝たきり状態の方に対しては抗認知症薬の効果はなく、副作用だけが出ますので終了を検討した方が良いでしょう。

 以上、抗認知症薬について解説しました。現在、抗認知症薬は多くの治験が行われています。残念ながら現在、治験薬の大半が効果を実証できず中断されています。その中で2020年に米国で承認申請まで至った新薬があります。抗アミロイドβ抗体(凝集抑制薬)に該当しますが、もし承認されれば抗認知症薬に一石を投じることになります。米国で承認されれば、日本でも承認申請されると思いますので引き続き注視したいと思います。

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