「認知症でも心は豊かに生きている」で認知症に罹患した時の心構えや介護者からの接し方について知る

認知症でも心は豊かに生きている

 著者は長谷川式認知症スケール(HDS-R)を作成した長谷川和夫先生です。ご本人自身も認知症を発症し、前著「ボクはやっと認知症のことがわかった」で認知症を発症した時の心境を詳しく語られています。本書ではより具体的に認知症に罹患した時の心構えや介護者からの接し方について100個の文言で綴られています。本書は非常に分かりやすく書かれていますので、どなたでもとっつきやすく読み進めることができます。

認知症の本質は暮らしの障害

 著者は認知症の本質は「暮らしの障害」と述べています。朝、起きてから食事、洗濯、掃除、外出など今までできていたことがうまくいかなくなることを指します。非常に不便を強いられますが、著者は「周囲との関わり方」によって案外そうでもなくなると述べています。

 生活環境次第で、認知症になっても「本当に認知症なのか?」と言われるくらい見違えるようになる人もいます。認知症の障害の程度は、周囲の力を借りれば緩和されます。料理ができなくなったとしても、「野菜を切ってください」とお願いすることで、単純作業や慣れた作業なら行うことができる場合があります。認知症の人が家の中で役割を持てていると実感すると、見違えるように元気になっていくケースがあります。

 認知症にかぎらず、人は何らかの「貢献感」を実感すると生き甲斐を感じるようになります。「社会との関わり」が認知症予防に繋がるとよく言われていますが、ボランティアのような大掛かりな活動にまで至らなくても、家庭内で家事の一部を引き受けてもらうことでも社会的繋がりを維持することができます。家に閉じこもることを避け、誰かと一緒に何かをするなどして疎外感を持ち続けさせないことが認知症の人だけでなく、認知症を予防する上で大事なことです。自分の今後を家族と一緒に考え、自己判断できるうちに、医療や介護サービスの利用、財産の管理方法などを、自分の意志で決定しておくのが望ましいです。

認知症をカミングアウトできる社会

 著者は「自分は認知症なんです」と言える社会が大事と述べています。元々、人は一人で生きていくことはできず、人の営みのすべてが多くの人によって支えられています。それは認知症があっても変わりません。認知症になったことを恥と感じて隠そうとする人がいますが、上で述べたように、暮らしの障害を一人で乗り越えることは非常に困難であり、いつか破綻します。周囲の人たちに支えられているという自覚を持つことは、病気を抱えながら老いていくことの苦悩に耐えていく上で、大きな励みになります。そして認知症外来などで早期診断を受けることで、本人と家族の心構えができ、医療や福祉サービス利用(プロの介護者の介入)に繋げられるきっかけになります。

認知症ケアがうまくいくための生活環境の3条件

  認知症ケアがうまくいくための3つの条件は、「ゆっくりとした時の流れがあること」「小規模で家庭的な環境であること」「安心できる居場所と役割があること」と述べています。認知症になると自分の考えを整理して発信する処理する能力が低下します。しかし、時間をかければ自分なりに判断することができる場合もあります。認知症の人と関わっていく上で、「聴く」と「待つ」は非常に大事なスキルです。認知症の人が持つ心の時間に合わせ、言葉が発せられるまで待ちます。時間がものすごくかかったとしても、認知症の人の思っていることが伝われば、双方とも大きな励みになります。

 「小規模で家庭的な環境」とは、グループホームのような小さな環境が該当しますが、馴染みの品が身近にあり、馴染みの人のケアが受けられるだけでも成立します。家族は最も身近な存在ですが、デイサービスに行くと自分の決まった席がある、何らかの自分の役割があることでも生き甲斐を感じる一助になることがあります。

介護職・医師が気をつけるべきこと

 医療従事者は、家族の介護方法に問題があっても、すぐにはそのやり方を否定しないことが大事でと本書で述べています。家族が行う介護の中には、望ましくないやり方も見られます。しかし様々な経緯を経て、やむをえず選択された方法である場合が多いので、頭ごなしに否定しないのが望ましいです。まずは、家族がその選択に至った経緯を傾聴することが大切です。

 医療従事者は認知症の人の心の中に寄り添い、またある時は専門的な観点から認知症の人や家族とは距離をとるといった「2.5人称」的な対応が重要です。これこそが最近良く言われている「パーソン・センタード・ケア」の医療と介護であると述べています。認知症の人には「シンパシー(同情)」ではなく「エンパシー(共感)」が大事であるとしています。

 本書では他にも、認知症予防に効果的なのは「書くこと」で、日記をつけることをすすめています。俳句・短歌・絵を描くことでも良いとしています。介護者は、昔の写真を見せるなど、「回想」を支援することで、認知症の人が楽しそうに想い出話を始め、混乱や自信喪失から回復することがあると述べています。このような行動・心理症状(BPSD)の対応についてもいくつか述べられています。本書は、認知症の人とその介護者の心構えを学びたい・知りたい人にすすめたい書籍です。

以下の記事も参考にしてください

「ボクはやっと認知症のことがわかった」の著書から認知症者の気持ちを疑似体験し、共に生きる方法を学びます

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yshima脳神経内科医
認知症専門医の資格を持つ脳神経内科医です。 神経内科専門医・指導医、総合内科専門医・指導医、認知症サポート医。 M.D., Ph.D.