認知症末期のケア:感染症と薬物治療

感染症

 感染症は、認知症に合併する非常に多い疾患です。進行性認知症では抗菌薬の過剰な投与や誤用があります。臨床医は、検査や治療を開始する前に感染を疑う最低限の基準を満たしていることを確認し、抗菌薬の使用は患者や家族のケア目標に沿ったものにすべきです。本記事では、認知症末期の感染症と薬物治療について解説します。

感染症と発熱

 感染症や発熱は進行性認知症では非常によく見られる。これらは治療決定の約4分の1を占め、しばしば終末期イベントとなる。感染症のうち、呼吸器系は約2分の1、尿路系は約3分の1を占めている。治療へのアプローチには、患者の緩和ケアニーズと標準的な感染症診療とのバランスを十分に考慮する必要がある。

 抗菌薬の使用は進行性認知症では広範囲にわたっており、患者の最大40%が人生最後の数週間に抗菌薬を投与されている。しかし、この使用の多くは不適切な場合があり、抗菌薬は感染症の十分な臨床的根拠がないまま開始されることが多い。

 抗菌薬の誤用は、患者負担の観点からだけでなく、薬剤耐性菌の出現による公衆衛生の観点からも大きな懸念がある。抗菌薬曝露は耐性菌獲得の最大の危険因子であり、認知症が進行した介護施設入所者では多剤耐性菌のコロニー化率が他の入所者と比較して3倍高い。プロスペクティブコホート研究では、進行性認知症の介護施設入居者の67%が、12ヵ月間の追跡調査期間中に少なくとも1つの多剤耐性菌にコロニー化されていた。入居者は、キノロン(調整後ハザード比[aHR] 1.89、95%CI 1.28-2.81)または第3世代または第4世代セファロスポリン(aHR 1.57、95%CI 1.04-2.40)に少なくとも1日暴露されていた場合に、より高い獲得率を示した。

 フレイル高齢者で特に懸念される抗菌薬投与のリスクには、Clostridioides difficile感染症、非経口投与に伴う潜在的な不快感、薬物相互作用などがある。

評価と管理

 進行性認知症における感染症が疑われる場合の評価と治療は、ケアの目標によって導かれるべきである。主な治療法の選択は、治癒の可能性のある抗菌薬を投与するか、緩和手段(例:酸素、アセトアミノフェン)のみを導入するかである。

 抗菌薬の使用が患者およびその家族のケア目標と一致している場合、医療提供者は、そのような治療を正当化するのに十分な感染の証拠があることを確認するべきである。Society for Healthcare Epidemiology of America(SHEA)によって承認された介護施設集団における抗菌薬使用を開始するための最低限の臨床基準は、進行性認知症での使用に適応された有用なガイドを提供している。ある研究では、進行性認知症の老人ホーム入居者で抗菌薬による治療を受けた感染症が疑われるエピソードのうち、これらの基準を満たしていたのはわずか44%であった。抗菌薬開始を決定した後は、確認検査(胸部X線、白血球数、カテーテルによる尿検査など)の必要性と、これらの末期患者における検査の潜在的な負担とのバランスをとる必要がある。

認知症が進行した介護施設入所者の感染症が疑われる場合の抗菌薬使用開始の最低基準

1.尿路感染症疑い

A. フォーリーカテーテルを留置していない

急性排尿障害単独または、体温 >37.9℃で以下の基準を1つ異常満たす

  • 新規または頻回な悪化
  • 緊急性
  • 肋骨脊柱角圧痛
  • 血尿
  • 上腹部痛
  • 精神状態の変化
  • 悪寒

B. フォーリーカテーテルを留置している

以下のうち1つ以上を満たす

  • 体温 >37.9°C
  • 悪寒
  • 精神状態の変化

呼吸器感染症疑い

A. 体温 >38.9°C

以下のうち1つ以上を満たす。

  • 呼吸数>25呼吸/分
  • 新規発症の進行性咳嗽

B. 体温 <38.9°C

新規発症の進行性咳嗽および以下のうち1つ以上を満たす。

  • 脈拍>100拍/分
  • 呼吸数>25 /分
  • 悪寒
  • 精神状態の変化

C. COPDを伴う無熱性

  • 膿性の痰を伴う新規発症進行性咳嗽

皮膚感染症疑い

新規または増加した膿性排液または以下のうち1つ以上を満たす

  • 体温>37.9℃
  • 発赤
  • 新規または増悪した腫脹
  • 熱感
  • 皮膚緊張

発熱エピソード

体温 >37.9℃かつ以下のうちの1つ以上を満たす。

  • 精神状態の変化
  • 悪寒
  • 不安定なバイタルサイン

 無作為化試験が行われていないため、進行性認知症の感染症に対する抗菌薬治療が、質の高い緩和ケアで得られる以上に生存率や症状緩和を改善するかどうかは不明である。観察データによると、肺炎に対する抗菌薬治療は、生存率は向上するが快適性は低下することが示唆されている。尿路感染症(UTI)が疑われる場合の抗菌薬治療は全生存率に影響を与えない可能性がある。

 例として、高度認知症の介護施設入居者300人以上を対象としたCASCADE研究では、経口抗菌薬(55%)、筋注(IM)抗菌薬(16%)、静脈内(IV)抗菌薬または入院(20%)、または抗菌薬なし(9%)で治療された肺炎エピソードが225件あった。以下のような結果が得られている。

 抗菌薬を投与された患者は、抗菌薬を投与されなかった患者に比べて平均273日長く生存したが、生存期間は3つの抗菌薬ルート間で差がなかった(経口、IM、静脈内抗菌薬のaHRは、抗菌薬を投与しなかった場合と比較して0.2%、0.3%、0.2%)

 肺炎に対して何らかの抗菌薬治療を受けた入居者は、治療を受けていない入居者と比較して、快適性(Symptom Management at the End-of-Life in Dementia scaleのスコアが低かった)が悪かった。

 これらのデータは、延命が目標であり続ける場合でも、適切な場合には抗菌薬を経口投与し、より積極的な非経口治療や入院を避けることが可能であることを示唆している。

尿路感染症の疑い

 UTIは診断が特に困難であり、抗菌薬誤用の最も多い理由であるため、高度認知症患者の尿路感染症の評価には特別な配慮が必要である。認知症の進んだ老人ホーム入居者を対象とした前向き研究では、抗菌薬による治療を受けたUTIが疑われる患者の80%は、そのような治療を正当化するための最低限の基準を欠いていた。

 UTIの診断には、症状のほか、尿検査や尿培養での陽性所見が必要である。しかし、認知症が進行した患者では、感染がなくても尿検体は一般的に陽性であり、無症候性の細菌尿に対して抗菌薬治療は必要ない。

 尿道カテーテルを留置していない患者では、カテーテルを留置している患者よりも尿路結石のリスクがはるかに低いが、SHEAの基準では、抗菌薬を開始するための最低の臨床基準として、発熱に加えて別の症状・徴候が必要とされている。認知症が進行した患者では、UTIの徴候を識別することは困難である。患者は事実上無言であるため、排尿困難、切迫感、肋骨脊柱角圧痛、恥骨上痛などの古典的な症状は信頼性が低く、報告されることはほとんどなく、精神状態の変化が唯一の観察可能な症状である場合がある。しかし、精神状態の変化だけではUTIの高感度で特異的な症状ではないことを認識することが重要である。したがって、ほとんどの場合、カテーテルを使用していない進行性認知症の患者でUTIが疑われる場合に抗菌薬の投与を正当化するためには、発熱と精神状態の変化の両方が存在しなければならない。

 留置型尿道カテーテルを装着している患者では、別の感染源を示唆する追加症状(例えば、新たな咳)がない場合には、発熱だけでも十分な抗菌薬開始の根拠となりうる。

 抗菌薬は、尿検査と尿培養の結果が陰性であることが確認され次第、直ちに中止すべきである。検査結果が陽性であっても、提供者は臨床的判断で、徴候と尿検査の陽性の組み合わせが別の病因ではなく真のUTIを反映しているかどうかを評価しなければならない。

入院

 進行性認知症患者では終末期の入院は多くの場合回避可能である。米国の認知症による死亡者の約16%が病院で死亡しており、認知症が進行した老人ホームの入居者は、人生の最後の90日間に平均1.6回の入院を経験している。進行性認知症患者の入院の75%が回避可能であると推定されているが、これは病院レベルのケアが不必要であるか、または希望に沿わないためである。データは、これらの患者の入院の最も多い原因である肺炎は、介護施設や地域社会でも同等の有効性があり、患者への負担が少なく、医療制度への負担が少ないことを示唆している。

 入院は侵襲的で、進行性認知症患者の終末期の転帰の悪化と関連している。病院は治療の決定の重要な場でもあるが、ケアの中断、不慣れな提供者、最適な退院へのプレッシャーなどの理由から、決定はしばしば最適ではないことが多い。例えば、高度認知症患者の68%が入院中に栄養チューブを入れている。

 快適さが優先される進行性認知症患者の大多数にとって、入院がこの目標と一致することはほとんどないが、まれな例外(例:股関節骨折)がある。ほとんどの場合、入院の負担はメリットを上回るので避けるべきである。医療提供者は日常的に代理人にカウンセリングを行い、急性疾患の発症前に進行性認知症の人を入院させたいかどうかを確認すべきである。入院を避けたいという希望は、書面による事前指示書や入院禁止命令書として正式なものにすべきである。

その他の管理問題

痛み・苦痛の管理

 認知症が進行した場合、苦痛を伴う症状は多い。介護施設で300人以上の進行性認知症患者を対象としたCASCADE研究では、患者の25%近くが人生最後の3ヶ月間に痛み、30%が呼吸困難、30%が焦燥感を訴えていたと報告されている。人生最後の1週間の症状を評価した別のコホートでは、最も多い3つの症状は痛み(52%)、呼吸困難(35%)、焦燥(35%)であった。

 重度の認知障害を持つ患者では痛みの測定は困難であり、進行した認知症における痛みや不快感を評価するためのいくつかの疾患特異的なツールが開発されている。その中でも、比較的使いやすく、信頼性と妥当性が証明されているPAINAD(Pain Assessment in Advanced Dementia)を使用することを提案している。PAINADには、呼吸、否定的な発話、表情、ボディランゲージ、制御の必要性の5つの異なる領域の評価が含まれている。スコアの範囲は0~5で、スコアが高いほど重度の疼痛であることを示す。

Pain Assessment in Advanced Dementia (PAINAD) scale

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呼吸正常時折、呼吸が苦しくなる。短期間の過呼吸騒々しいほどの雑音のある呼吸。長時間の過呼吸。Cheyne-Stokes呼吸。
否定的な発話なし時折の呻吟や苦悶。否定的または不愉快な質の低レベルの発言。困ったような呼びかけを繰り返す。大きな呻吟やうめき声。泣く。
表情笑顔、無表情悲しい、怯える、しかめ面。しかめ面
ボディランゲージリラックス緊張感、苦痛に満ちた仕草、そわそわする。硬直。拳を握りしめて 膝を引き上げる。引っ張ったり、押し退けたり、手を振り上げる
制御制御不要声かけやタッチで気分をそらす、安心する慰めたり、気を紛らわせたり、安心させたりすることができない

 身体的不快感(例:呼吸困難、疼痛)を軽減するための標準的な管理アプローチは、進行性認知症の患者では追求すべきである。可能な場合には、症状管理を支援するために専門の緩和ケアチームやホスピスの紹介を求めるべきである。

尿失禁

 認知症者の尿失禁を管理する際には、認知障害だけが失禁の原因であると考えてはならない。他の要因(例えば、膀胱機能障害、併存疾患、薬物療法)も調査し、治療する必要がある。ケアの目標および治療の優先順位の話し合いには、治療を監督または実施する介護者のニーズおよび希望を含めるべきである。認知症患者では非薬物的介入が望ましい。薬物療法、特に抗コリン薬は、認知症患者では副作用が多くなる可能性があるため、注意して使用すべきである。

抗認知症薬などの慢性薬の継続

 進行性認知症における薬剤の使用は、ケアの目標に応じて指導する必要がある。進行性認知症患者は嚥下障害を有することが多く、不要な薬剤を中止することでQOLの向上や副作用の軽減が期待できる。

 専門家によるコンセンサスでは、進行性認知症では不適切な薬物が特定されている。進行性認知症患者において明確な効果が得られなくなった慢性的な日常的な薬物の例としては、脂質低下薬やカルシウムサプリメントなどがある。介護施設での進行性認知症患者を対象とした研究では、54~86%の患者が、コリンエステラーゼ阻害薬、メマンチン、抗血小板薬(アスピリンを除く)、脂質低下薬、性ホルモン、ホルモン拮抗薬、ロイコトリエン阻害薬、細胞毒性化学療法、免疫調節薬など、有益性が疑われる薬物を少なくとも1種類は投与されている。ある研究では、有益性が疑問視される薬剤が、90日間の平均薬剤費の35%を占めていた。 GDSステージ7の進行性認知症患者におけるコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)やメマンチンを含む認知症治療薬の投与を支持するエビデンスは非常に限られている。アルツハイマー病(AD)において、機能的・認知的に中程度の改善を報告したこれらの薬剤の臨床試験は、ほとんどの場合、GDSステージ7に達していない被験者を対象としている。

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