「医師が認知症予防のためにやっていること。」を読めば2020年時点での最新の認知症予防法を知ることができます

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 「医師が認知症予防のためにやっていること。」の著者は国立長寿医療研究センターを2020年3月に定年退職された遠藤英俊先生です。退職後、認知症予防に自分自身がどのように取り組んでいるかを解説したのが本書になります。2017年のLancetからの認知症予防の報告、2019年のWHOの認知機能低下のリスク低減に向けたガイドラインといった最新のエビデンスに基づいた予防法だけでなく、筆者の経験・調査に基づいた独特の予防法も紹介しています。本書を読んだ後にカレーを無性に食べたくなりました。本書は2020年時点での最新の認知症予防法が網羅されています。本記事ではこれらのうち特に印象に残った箇所を解説します。

自分次第で改善できる認知症の9つのリスク要因

 下の表は2017年のLancetから報告された年齢別の認知症リスクをまとめたものです。

小児期低学歴(11-12歳までの教育歴)
中年期(45-65歳)高血圧、肥満、難聴(聴力低下)
高年期(65歳超)喫煙、抑うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病

 まず、教育歴が短いほど認知症になる危険率が高くなります。これは学歴が高い人ほど普段から頭を使う習慣があるため、脳の予備能力(コグニティブ・リザーブ)が発達するためと考えられています。年をとると神経細胞の数はどんどん減っていきますが、神経細胞同士のネットワーク形成は発達していきます。勉強することによってこのネットワーク数が増えていきますので、認知症の病変ができても別のネットワークが働くことで認知症症状が出現しない期待があります。逆に勉強をやめるとコグニティブ・リザーブは減っていきますので、何歳になっても勉強を続けることが大事であると述べています。

 中年期では生活習慣病の予防と難聴の治療が重要です。認知症予防は「食事」「運動」「社会活動」を3本柱にしています。40代から認知症予防に有用な食生活と定期的な運動を習慣化するよう勧めています。食生活については「認知症予防にオススメできる食習慣4選」を参考にしてください。

 高年期は3本柱のうちの「社会活動」によって他者との繋がりを作ることの大切さを述べています。社会的孤立の相対リスクは1.6倍と高く、一人暮らしの高齢男性に多いと言われています。予防法としてはボランティアに参加する、趣味の集まりに参加する、喫茶店の常連客になるなどを勧めています。オーストラリアでは独居男性の家に犬を届けて世話を頼むNPO活動があります。ペットの癒やし効果は認知症の予防に有用であると考えています。

認知症予防の食事はカレーと柑橘類、特にシークワーサーが勧められる

 本書では認知症予防に効果のある食品を多く紹介していますが、特にカレーとシークワーサーをオススメしています。カレーにはターメリックという香辛料が入っており、そのターメックには「クルクミン」というポリフェノールの一種が含まれています。ポリフェノールはビタミンCと同じく抗酸化作用を持ち、動脈硬化の予防効果があると言われています。また細胞実験になりますが、クルクミンがアミロイドβタンパクの凝集を抑制するとの報告があります。これらの働きでアルツハイマー型認知症の発症を予防する働きがあるのではないかと考えられています。アミロイドβは40-50歳代から凝集し始めるため、カレーを40-50歳代から頻繁に食べることで、認知症の進行を防ぐ可能性があります。

 柑橘類は「ノビレチン」を多く含み、ノビレチンは抗酸化作用・抗糖化作用・抗炎症作用を持ちます。また細胞実験ですが、ノビレチンは神経細胞の突起を増やす効果があると報告されています。神経突起が増加すればネットワークもたくさん構築されるため、認知症病変ができても影響を少なくできる効果が期待されます。シークワーサーは柑橘類の中でもノビレチンの含有量が10-20倍多いとされています。沖縄県の特産であるシークワーサーは沖縄県の認知症発症率低下に寄与しているのではないかと考えられています。

新しい抗認知症薬・アデュカヌマブは認知症治療に革命を起こすか

 2019年12月に早期アルツハイマー型認知症を対象とした臨床試験で、「アデュカヌマブ」が認知機能低下を2割抑えるというデータを製薬会社が公表しました。この結果に基づき製薬会社は2020年アメリカに抗認知症薬の承認申請を行いました。もし承認されましたら続いて日本にも承認申請を開始すると思われます。

 アデュカヌマブはアミロイドβタンパクの凝集を抑える薬剤として臨床試験を行っていましたが、当初有意な効果が認められなかったため第III相試験で中止になっていました。しかし高用量投与群で今回改善効果が出たため申請を開始した経緯があります。これまでの抗認知症薬は、神経伝達促進や神経細胞死の抑制などあくまで対症療法として使われていました。本剤が正式採用された場合、早期に投与をすれば認知症症状を起こさず暮らしていけるかもしれません。ただし現時点での問題は高用量が必要であること、アルツハイマー型認知症早期である必要があることです。薬剤の安全性と選択性を加味すると、発売当初の対象者は相当限定されるのではないかと推測します。  

 本書で他に興味を持ったものは、「降圧薬ではアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が認知症リスクを下げる報告がある」、「欧米では65歳以上の認知症患者の有病率が低下している」です。前者は高血圧治療自体が認知症の発症リスクを下げると実証されていますが、降圧薬のタイプに関するサブ解析でARBが最も効果的な傾向たありました。

 後者は本書の解説によると欧米では過去の高齢者に比べて現在の高齢者の方が学歴が高いために、認知症を発症する人が減っていると捉えています。日本は戦前には小学校を卒業してすぐに働く人が多数いたため、現在の認知症者増加に繋がっていると考察しています。戦後は義務教育が中学校までとなり、更に昭和30年以降は高校・大学進学者も増えているため、これから認知症の発症率が減っていく可能性があると推測しています。内閣府の「高齢社会白書」では、65歳以上の認知症患者数が2012年の462万人から2025年には約700万人になると推計されているため、もし認知症患者数が減少するのなら認知症に関する予測の中で数少ない明るいものになります。