せん妄・錯乱状態の予防・治療・予後 Up To Dateまとめ

せん妄の管理

 せん妄の予防と治療は、以下の原則に基づいて実践するよう求められています。

  1. 多剤併用、脱水、拘束、感覚障害、サーカディアンリズムの障害など、せん妄の原因または悪化要因として知られているものを回避する。
  2. 急性期の基礎疾患の特定と治療。
  3. 身体機能・認知機能の低下を防ぐための支援・ケアを提供する。
  4. 上記3つのステップを達成できるように、低用量の短時間作用型の薬物治療を用いて、危険で重度の破壊的な行動をコントロールする。

 本記事ではせん妄の予防、治療、予後についてまとめました。

要旨

 せん妄は、集中力、持続力、注意力の低下を伴う意識の変化によって特徴づけられる急性の錯乱状態である。

  • せん妄を予防するための効果的な手段としては、せん妄の原因または悪化の原因となることが知られている要因を可能な限り回避すること、早期運動療法、環境の改善および非薬物的睡眠支援、早期介入および身体拘束の使用を最小限に抑えること、視覚および聴覚補助などがある。
  • 予防目的の薬物治療(コリンエステラーゼ阻害薬、ケタミン、抗精神病薬など)は、せん妄を予防することが示されていない。
  • ビタミンB1の補充は、せん妄のあるすべての患者に考慮すべきである。
  • せん妄の原因となっている急性疾患が特定された場合、せん妄を回復させるための最も効果的な手段として、その疾患に対して特異的な治療を行う。
  • 身体拘束は、しばしば動揺を増大させ、運動能力の喪失、褥瘡、誤嚥、せん妄の長期化などの問題を引き起こすため、最終手段としてのみ使用すべきである。
  • 親しい人からの頻繁な面会、触れ合い、言葉での指示は、破壊的行動を減らすことができる。
  • 向精神薬は、重度の焦燥性興奮や危害を及ぼす可能性のある精神病の治療のために、必要に応じて慎重に試すべきである。この場合、低用量ハロペリドール(セレネース®)0.5~1mgの経口投与または筋肉内投与の使用を検討する。その他の抗精神病薬(クエチアピン(セロクエル®)、リスペリドン(リスパダール®)、ジプラシドン、オランザピン(ジプレキサ®))も有効な代替薬である。
  • ハロペリドールは鎮静と低血圧の頻度が低い。
  • パーキンソン病が基礎にある患者では、ハロペリドールは避けるべきである。非定型抗精神病薬(例:クエチアピン)が望ましい。
  • 抗精神病薬は短期使用が推奨される。
  • 臨床医は、せん妄の重症度や期間の短縮ではなく、介護者の苦痛が向精神薬の処方を決定する動機となる場合が多いことを認識すべきである。
  • ベンゾジアゼピン系薬剤は、鎮静薬およびアルコールの離脱の場合、または抗精神病薬が禁忌の場合を除き、せん妄を有する患者またはその危険性のある患者には避けるべきである。
  • コリンエステラーゼ阻害薬はせん妄の症状の予防や治療には効果がなく、しばしば望ましくない副作用を生じる。
  • せん妄が完全に消失するまでには数週間から数ヶ月を要することがある。錯乱のエピソードは、アルツハイマー病(AD)患者の病気の経過に悪影響を及ぼす可能性がある。せん妄は短期および長期の死亡率の増加と関連している。

せん妄の予防

 個別介入またはグループ介入がせん妄を確実に予防することはない。しかし、修正可能な危険因子の多くに対応する多因子非薬物的介入はせん妄の発生率を減少させる可能性がある。

危険因子の修正

 せん妄のリスクになる原因が多数同定されている。せん妄の危険因子を軽減させる介入の例としては、以下のものがある。

1.見当識障害の改善

 時計、カレンダー、外の景色が見える窓の提供、患者の見当識を口頭で確認することで、慣れない環境での見当識障害から生じる混乱を緩和することができる。

2.認知刺激

 認知機能障害のある患者は、家族や友人との定期的な面会が効果的である。同時に、夜間の過剰刺激は避けるべきである。

3.生理的な睡眠の確保

睡眠時間中の看護や医療行為(薬の投与を含む)は可能な限り避けるべきである。夜間の騒音は減らすべきである。ある無作為化試験では、夜間の耳栓の使用は集中治療室(ICU)患者の混乱の発生率の低下と関連していることが明らかになった。

4.早期運動療法と身体拘束具の使用の最小化

 人工呼吸器装着の重症患者を対象としたある研究では、理学療法や作業療法を早期に実施し、鎮静薬の使用を中断することが、せん妄を伴う入院日数の減少と関連していることが明らかにされた。

5.視覚・聴覚補助具の使用

6.問題のある薬物の使用の回避および/またはモニタリング

 薬物は、せん妄の促進にしばしば関係している。特にベンゾジアゼピン系薬剤で多い。あるシステマティックレビューでは、ベンゾジアゼピン系薬剤を高リスク患者では避けるべきであり、オピオイド、ジヒドロピリジン系、抗ヒスタミン薬の処方には注意を払うべきであると結論づけている。

 介護施設を対象とした大規模クラスターランダム化比較試験では、問題のある薬の使用を特定して服薬見直しを行うためのコンピュータ化システムの導入がせん妄の発生率の低下と関連していた(HR = 0.42)。

7.疾患合併症の回避と治療

 せん妄を引き起こす、または悪化させることが知られている多くの疾患があるため、これらの疾患は積極的に管理し、可能であれば予防すべきである。

 低酸素血症および感染症は、高リスク患者で多い合併症である。これらはせん妄の一因となりうるため積極的に管理し、原因が特定された場合には治療すべきである。疾患合併症の回避に重点を置いた老年コンサルタントチームによる介入プログラムでは、股関節手術を受けた126人の高齢患者においてせん妄の発生率を3分の1に減少させた。

8.疼痛管理

 痛みはせん妄の重要な危険因子になる可能性がある。非オピオイド系薬剤はせん妄を悪化させる可能性が低いため、可能な限り使用すべきである。臨床医は、著しい疼痛を治療するためにオピオイドを使用する利点と、オピオイド関連のせん妄の可能性とのバランスを取らなければならない。このような状況では、非薬物的介入が有用である。ある研究では、股関節手術後の腸骨筋膜コンパートメントブロックは、中等度リスクの患者では術後せん妄の発生率の低下と関連していたが、高リスクの患者では関連しなかった。

 術後患者を対象とした研究では、事前の疼痛治療がせん妄の発生率を減少させる可能性があると示唆されている。高齢患者58人を対象とした1件の研究では、ケタミン(心臓手術の麻酔導入時に単回投与)の投与は、術後せん妄の発生率(3%対31%)を低下させることと関連していた。しかし、この結果から一般化された推奨を行うことは、サンプル数が少ないこと、非薬物的介入の一貫性がないこと、長期転帰に関する情報が不足していることから困難である。ケタミンは、術後せん妄の予防において一般的に有用であるようには見えない。

 特定のオピオイドは、高齢患者やせん妄を起こしやすい患者では避けるのが最善である。特にメペリジン(ペチジン®)は、せん妄のリスクを高めることが複数の前向き研究で示されている。

 末期のせん妄と疼痛を有するがん患者は、短時間作用型オピオイドからメタドンなどの長期作用型の薬物に切り替えることが有益であろう。臨床医は、オピオイド誘発性の痛覚過敏が発作性疼痛を引き起こす可能性を考慮すべきであり、疼痛コントロールのために非オピオイド系鎮痛薬の使用を検討すべきである。

 痛みをよりよく管理するための看護プロトコルの使用は、せん妄の重症度と持続時間を減少させることが実証されているが、せん妄の発生率は減少しない。

 1件の研究では、多因子介入が標準化されたプロトコルを用いて、70歳以上の入院患者852人を対象に、認知障害、睡眠不足、無動、視覚障害、聴力障害、および脱水症という6つのせん妄の危険因子をスクリーニングし、コントロールした。このプログラムの結果、通常のケアと比較してせん妄エピソード数(62対90)および総せん妄日数(105対161)が有意に減少した。せん妄の重症度および再発率には影響を与えなかった。

せん妄予防のための薬物

 急性期治療、集中治療、心臓外科、その他の術後ケアなどのリスクの高い状況でせん妄を予防するための薬物の使用を支持する根拠はない。コリンエステラーゼ阻害薬や抗精神病薬などの有用性については、引き続き研究を続けている。

コリンエステラーゼ阻害薬(例:リバスチグミン(リバスタッチ®)、ドネペジル(アリセプト®))は、治療中の患者やハイリスクの患者(例:認知症の有無にかかわらず高齢の患者、術後や脳卒中後の患者)においてせん妄を予防する手段として提案されている。しかし、臨床試験ではせん妄の有病率や発生率の低下は示されておらず、これらの薬剤を投与されている患者では副作用が大きくなっている。

・予防的に低用量で投与される抗精神病薬は、術後および重症患者を対象に研究されてきたが、せん妄の発生率、重症度、持続時間に一貫性がなく、せいぜい中程度の効果しか認められていない。これらの研究のうちの1件では、抗精神病薬の治療はせん妄の重症度および持続時間の増加と関連していた。2013年のシステマティックレビューおよび6件の研究のメタアナリシスでは、抗精神病薬の治療はせん妄の発生率を減少させるが、重症度や持続時間は減少させず、関連する有害事象の発生率も減少しなかったと結論づけられている。この解析では、第二世代の抗精神病薬はハロペリドールより有益である可能性が示された。

デクスメデトミジン(プレセデックス®)の投与は、術後および重症患者のせん妄の治療および予防において研究されてきたが、結果は一貫性が認められなかった。ある無作為化試験では、低用量デクスメデトミジン(0.1mcg/kg/時間、術後32時間投与)は術後せん妄の発生率を低下させた(9対23%、OR 0.35、95%CI 0.22-0.54)。すべてではないが、いくつかの研究で同様の結果が得られている。デクスメデトミジンの副作用には、用量依存性の徐脈と低血圧がある。

ガバペンチンは、パイロット試験において、痛みとオピオイドの投与量を減らすことで、術後せん妄の発生率を減少させたと考えられる。

メラトニンはせん妄の予防には一貫性のない有効性を示している。高齢の内科疾患を持つ入院患者(67,145人)を対象とした2つの小規模試験では、メラトニンアゴニストであるラメルテオン(ロゼレム®)とメラトニンはせん妄の発生率の低下と関連しているようであった。股関節手術を受けた222人の患者を対象としたランダム化試験では、術前にメラトニンを投与することで術後せん妄の発生率が低下することが明らかになった。対照的に、急性股関節骨折患者452人を対象とした大規模試験では、メラトニン投与による効果は認められなかった。

・痛みをコントロールするための鎮痛薬は、せん妄の発生率や重症度を減少させることがある。痛みを予防するためのケタミンの予防的使用は、術後せん妄の発生率の低下と関連しているが、さまざまな手術を受けた幅広い患者グループを含むランダム化試験では、ケタミン群とプラセボ群との間でせん妄発生率に差がないことが示された。幻覚や悪夢などの経験は、ケタミンを投与された患者でより高かった。

せん妄の管理

 せん妄の管理の基礎となる原則は、2つの経路を意識する。1つは異常行動の管理、もう1つは基礎疾患の発見と治療である。重要な注意点は、せん妄の症状は長期化する可能性があり、基礎となる原因や危険因子が修正された後も何週間も続く可能性があるということである。

基礎疾患の治療

 どのような疾患であっても、リスクの高い患者ではせん妄を誘発する可能性がある。せん妄の原因となる急性疾患が特定された場合は、その疾患に対して特異的な治療を行う。せん妄のプロスペクティブ研究でよく指摘されている疾患は以下の通りである。

代謝性脳症

  • 血液・電解質異常(脱水、低ナトリウム血症・高ナトリウム血症、低カルシウム血症・高カルシウム血症)
  • 感染症(敗血症、尿路、呼吸器、皮膚、軟部組織)
  • 内臓機能障害(尿毒症、肝不全、低酸素血症・高カルシウム血症)
  • 低血糖症

薬物中毒

 薬物中毒はせん妄の全症例の約30%でみられる、またはその一因となっている。臨床医は、リスクの高い患者においては、ジゴキシンやリチウムなどの治療域にある薬剤でもせん妄が起こりうることに注意しなければならない。

アルコール・鎮静剤からの離脱症状

 ウェルニッケ脳症の頻度は高くないが、高齢入院患者の多くはビタミンB1欠乏の所見を有する。さらに、慢性アルコール中毒は発見困難なことが多く、持続性アルコール性せん妄の症状はウェルニッケ脳症の症状と区別するのが難しい場合がある。ビタミンB1の補充は安価であり、事実上リスクはない。栄養不足の証拠があるすべての入院患者に処方されるべきである。

支持的医療

 せん妄状態の患者は、移動困難で混乱状態に陥るリスクにさらされており、不可逆的な機能低下を起こす可能性が高い。

 せん妄の予後は、障害を早期に発見し、根本的な原因を治療し、動作困難、誤嚥、褥瘡などの合併症を予防するために包括的な介入を行うことで改善されると長い間考えられてきた。残念ながら、これらに対する対照研究はほとんど存在しない。ある研究では、せん妄が確立している患者の早期発見と包括的な老人医療相談は、入院期間、機能的転帰、または生存にほとんど影響を与えなかったことが明らかにされている。別の研究では、多因子介入はせん妄の期間を短縮するが、死亡率や介護施設の利用には影響を与えなかったという結果が出ている。

 それでも、せん妄に対するアプローチは、十分な水分補給と栄養の維持、運動と可動域の強化、疼痛と不快感の治療、褥瘡の予防、尿失禁の改善(せん妄患者の半数以上にみられる)、および誤嚥性肺炎のリスクの最小化に焦点を当てるべきである。

 せん妄チームの介入は、恐怖や疲労を感じている家族や他の介護者も含めるべきである。せん妄は、認知症の介護者にとっては「最後の藁」となりうる。介護者の余力を現実的に評価しなければならない。

 せん妄が完全に解消するまでに数週間から数ヵ月を要することがあるため、管理は亜急性期にまで及ぶことが多い。新しい施設へのケアの移行は、高齢の患者にとって特に脆弱な時期であり、受け入れ側の治療チームに精神状態に関する情報を効果的に伝えることが重要である。

焦燥性興奮の管理

 破壊的行動、特に焦燥性興奮と攻撃性の管理は、せん妄治療の困難な一面である。このような多動性せん妄は高齢患者ではあまり強く見られず、低活動性せん妄と交互に起こるため、臨床スタッフには気づかれないことがある。混乱状態で多動的な期間は、患者が転倒する、ふらつく、あるいは不注意で静脈ラインや栄養チューブを抜く危険性をもたらす。

 せん妄が焦燥性興奮によって顕在化している場合、危害を防ぐため、あるいは評価および治療を行うために症状のコントロールが必要な場合がある。非薬物的介入が治療の主体であるべきだが、このような状況では向精神薬の慎重な試行も必要である。せん妄を管理するための向精神薬の使用は、実際のせん妄症状の重症度よりも介護者の苦痛とより強く相関していることが観察されている。

非薬物的介入

 軽度の混乱および動揺は対人環境および環境調整で改善することがある。周囲の騒音、劣悪な照明、窓の欠如、頻繁な部屋の入れ替え、および拘束具の使用がある病院環境は、しばしば破壊的行動を悪化させる原因となる。これらのリスクへの対処により、虚弱入院患者の機能的予後を改善している。頻回な確認、接触、および言語による指示は、混乱行動を軽減することができる。家族や身近な人が好ましいが、プロの介護者も効果を発揮できる。妄想や幻覚に対しては、肯定や論争することを避ける。

 身体拘束はしばしば動揺を増大させ、運動能力の喪失、圧迫性皮膚潰瘍、誤嚥、せん妄の長期化などの問題を引き起こすことがあるため、できれば最後の手段としてのみ使用すべきである。ある研究では、入院患者における拘束の使用は、退院時の持続性せん妄のオッズを3倍に増加させることと関連していた。拘束に代わるものとして、(できれば家族など患者に親しい人が)常時観察するなどの方法がより効果的である。

抗精神病薬

 せん妄は自傷行為と関連しており、有効な代替手段がないため、せん妄患者の重度焦燥性興奮の治療には抗精神病薬が用いられる。現在、せん妄の管理のために米国食品医薬品局(FDA)で承認されている薬物はないため、抗精神病薬の使用は適応外である。

 限定的なエビデンスに基づき、中等度から重度の動揺または精神病症状をコントロールするために、必要に応じて低用量のハロペリドール(0.5~1mg)を1日あたり最大5mgまで使用することを推奨している。連続投与または予防的投与は推奨されない。ハロペリドールは経口、筋肉内(IM)、または静脈内投与が可能である。作用発現は、静脈内投与後5~20分ですぐに発現するが、筋肉内投与や経口投与の場合はそれ以上の時間がかかる場合もあり、即効性は期待できない。ハロペリドールの静脈内投与は、臨床的にQT延長と関連しており、その使用には予防措置が必要である。抗精神病薬は、認知症患者に使用すると死亡率や脳卒中のリスクが高くなることがあるため、短期的な使用のみを推奨する。

 せん妄の管理に抗精神病薬を使用することを支持するデータは限られている。大規模のランダム化試験の1つである集中治療室のせん妄患者1183人にハロペリドール、ジプラシドン、またはプラセボを1日2回投与した。症状の消失または副作用の発現に基づいて投与量を調整した。結果(せん妄または昏睡を伴わない生存日数の中央値)は患者群間で同様であった。この研究の限界は、低活動性せん妄と過活動性せん妄の両方が含まれていること、主要エンドポイントが、これらの薬物の通常の適応である動揺のコントロールではなくせん妄の持続時間であったことである。さらに、すべての患者は多因子非物的介入で治療されており、これがせん妄の発生率の全体的な低値と薬物治療に関連した差を検出する能力に寄与している可能性がある。他の小規模な試験では、これらの薬剤がせん妄エピソードの重症度を低下させる可能性が示唆されているが、全体として、薬剤の使用を支持する証拠は確実ではない。

 ハロペリドールの臨床経験が長いため、標準治療であり続けている。新しい非定型抗精神病薬であるクエチアピン(セロクエル®)、リスペリドン(リスパダール®)、ジプラシドン、オランザピン(ジプレキサ®)は、副作用が少なく、小規模な研究ではハロペリドールと同等の有効性を示している。ハロペリドールとリスペリドンおよびオランザピンを比較した3件の小規模研究のメタアナリシスでは、これら3つの薬物はせん妄の治療において同様の効果があることが明らかになった。小規模臨床試験では、ICUに入院しているせん妄患者36人を対象に、必要に応じてハロペリドールの追加治療としてケチアピンの増量をプラセボと比較した。クエチアピンはせん妄の期間の短縮、動揺の軽減、入院後の在宅退院率の上昇と関連していた。対照的に、ICU患者を対象にハロペリドール、ジプラシドン、プラセボを比較したランダム化試験では、積極的な治療は、精神状態の変化を伴わない生存日数や有害事象の発生率で測定した場合、転帰を改善しないことが明らかになった。

 錐体外路系の副作用は、高用量ハロペリドール(1日4.5mg以上)で治療された患者で高いが、ある研究では低用量ハロペリドール、オランザピン、リスペリドンで治療された患者でも同様であった。一般的に、パーキンソン病患者では非定型抗精神病薬を優先してハロペリドールは避けるべきである。これらの薬物の副作用として鎮静や低血圧が起こることもある。

ベンゾジアゼピン系薬剤

 ベンゾジアゼピン系薬剤はせん妄の治療における役割は限られている。これらの薬剤は主に鎮静薬やアルコールの離脱の場合、または抗精神病薬が禁忌の場合に適応となる。臨床医を対象とした調査では、ベンゾジアゼピン系薬剤がせん妄患者に過剰処方されていることが示唆されている。

 ベンゾジアゼピン系(例えば、ロラゼパム(ワイパックス®)0.5~1mg)は抗精神病薬よりも作用発現が早い(非経口投与後5分)が、錯乱と鎮静を悪化させることがある。ICU患者を対象としたプロスペクティブ研究では、ロラゼパムはせん妄発生の独立した危険因子であり、リスクを約20%増加させた。せん妄におけるベンゾジアゼピンの使用に関する系統的レビューでは、ベンゾジアゼピンと抗精神病薬を比較した2つの研究が報告されている。1つの研究では利点はなく、もう1つの研究では抗精神病薬と比較してベンゾジアゼピンの有効性が低下していることが示されている。人工呼吸器装着のICU患者を対象とした鎮静治療の2つのランダム化試験では、ベンゾジアゼピン系のミダゾラム(ドルミカム®)はデクスメデトミジン(プレセデックス®)治療と比較してせん妄が有意に多かった(77%対54%)が、ロラゼパムとデクスメデトミジンでも同様の結果が観察された。

コリンエステラーゼ阻害薬

 コリンエステラーゼ阻害薬はせん妄の治療または症状管理には効果がなかった。あランダム化臨床試験では、ハロペリドールを処方されていたせん妄の入院集中治療患者104人を対象に、リバスチグミン(リバスタッチ®)とプラセボを比較した。この試験は、リバスチグミン群で死亡率が高かったため(22対8%)、早期に中止された。せん妄の持続時間の中央値もリバスチグミン群で長かった(5日対3日、p=0.06)。その他コリンエステラーゼ阻害薬もせん妄の予防には有用ではない。

その他の鎮静剤

 その他の鎮静剤(例:デクスメデトミジン、プロポフォール、ベンゾジアゼピン系および抗精神病薬)は、不安や痛みの管理、せん妄の管理のために、しばしば重症治療の現場で使用され、せん妄・動揺の管理に寄与すると考えられている。

痛みの管理

 術後、外傷後では、せん妄や動揺の原因となる痛みの役割を考慮し、鎮痛剤を投与すべきである。ただ疼痛を軽減する治療法はせん妄を引き起こす可能性があるため、注意して投与すべきである。

 心臓手術後の患者53人を対象とした1件のランダム化研究では、モルヒネ(5mg IM)を投与された患者は、ハロペリドール(5mg 筋注)を投与された患者よりも動揺の急速な改善がみられ、追加の鎮静剤を必要とする可能性が低かった。その他の転帰は評価されなかった。

低活動性せん妄

 一般的に、対症療法は低活動性せん妄には用いられない。 ある研究では、低活動性せん妄患者は、興奮状態にある患者と同様にハロペリドールによる治療に反応することが示唆されている。他の症例報告および1件の非対照症例報告では、メチルフェニデート(リタリン®)による治療が覚醒度および認知の改善と関連している可能性が示唆されている。しかし、焦燥性興奮を誘発する、精神病症状を悪化する危険性があるため、メチルフェニデートまたはモダフィニル(モディオダール®)などの精神刺激薬は、活動性低下せん妄の治療には推奨できない。

せん妄の予後

 せん妄は高齢者の健康に多大な影響を及ぼす。せん妄患者は、年齢、併存疾患、または認知症のベースラインの違いを調整した後でも、入院の長期化、機能的および認知機能の低下、死亡率の上昇、施設入所のリスクの上昇を経験する [103-110]。

死亡率

 せん妄に伴う死亡率は高い。いくつかの研究の結果をプールした報告では、せん妄のない患者に比べて1ヵ月と6ヵ月の死亡率はそれぞれ14%と22%で、約2倍と推定されている。これらの所見は、認知症や重度の身体疾患(敗血症など)を併発していることが一因であると考えられる。しかし、認知症やその他の潜在的な交絡因子を調整したプロスペクティブ観察研究では、せん妄が入院後6ヵ月または12ヵ月後の死亡率の独立したマーカーであることが明らかになった。

 また、せん妄の持続時間と死亡率との間には関係があることが研究で明らかにされている。ある研究では、せん妄の期間が長引いた場合(すなわち、6ヵ月後にせん妄症状が持続した場合)は、患者に認知症の基礎疾患があるかどうかにかかわらず、症状が速やかに消失した患者と比較して、1年後の死亡率の増加と関連していた。

持続的な認知機能障害

 せん妄の徴候は、特に基礎となる認知症のある患者では12ヵ月以上持続することがある。

 ある長期追跡調査では、せん妄を経験した患者の3分の1のみが2年後も地域社会で自立して生活していることが明らかになった。心臓手術後の患者225人を対象とした別のプロスペクティブ研究では、せん妄を経験した患者は、せん妄を経験しなかった患者と比較して、6ヵ月後のベースライン時のMMSEスコアが持続的に低下している可能性が高いことが明らかになった(40%対24%)。12ヵ月後の差は統計的に有意ではなかった(31%対20%、p=0.055)。内科的または外科的集中治療で入院した患者821人を対象とした研究では、せん妄の持続期間は3ヵ月後と12ヵ月後の認知機能の悪化と関連していた。ベースライン時に認知機能障害があったのはわずか6%であったが、12ヵ月後には34%に中等度外傷性脳損傷患者と同様の障害がみられた。他の研究では、せん妄患者は、せん妄を発症していない入院患者よりも長期的な認知障害を有する可能性が高いことが明らかになっている。このように、せん妄は可逆性の可能性があると考えられているが、特に虚弱で高齢の患者では、障害が長期化し、永久的なものになる可能性がある。

 入院中のせん妄のエピソードはアルツハイマー病(AD)患者の経過に悪影響を及ぼす。入院を経験したマサチューセッツアルツハイマー病研究センター患者登録の263人のうち、56%が入院中にせん妄を発症した。せん妄を発症したAD患者と発症していないAD患者では、入院前の認知機能低下率は同程度であったが、入院後はせん妄を発症していない患者に比べて入院後1年間で2倍の割合で認知機能低下が進行していた。認知機能の低下の割合の方が高いことは、入院後5年まで明らかであっ。せん妄を経験したAD患者は、死亡や施設入所のリスクも高かった。

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