COVID-19流行による社会支援サービスの制限は、認知症者と介護者の心の健康に悪影響を及ぼす(英国より)

social distance

 本研究の目的は、COVID-19 の感染防止対策が社会支援サービス(ソーシャルサービス)の利用に与える影響と、サービスの制限が高齢者や認知症の人、その介護者の幸福感に与える影響を探ることです。569名が本研究に参加しました(認知症61名、介護者285名、高齢者223名)。今回、ソーシャルサービスの週平均利用時間とサービスを利用した人の数が COVID-19流行 後に有意に減少したことが示されました。 重回帰分析では、ソーシャルサービスの利用時間の変動が大きいほど、認知症者や高齢者の不安の増加、介護者や高齢者の幸福度の低下が有意に認められました。COVID-19が原因でソーシャルサービスを利用できないことは、認知症者や高齢者の生活の質や不安を悪化させていることが判明しました。感染予防対策が当面続くことを考慮すると、ソーシャルサービスは、適応した形で支援を提供し続けることができるようにする必要があります。

Int J Geriatr Psychiatry. 2020 Sep 18. doi: 10.1002/gps.5434.

背景

 英国では、3月23日から12週間以上全国的なロックダウンが課され、外出は運動や食料品の買い物や薬の受け取りなどの必要不可欠な外出のみとし、1日1回を越えた外出は認められませんでした。また70歳以上の高齢者と健康状態の低い人達は、外出禁止となりました。世界では、推定5,000万人が認知症者で、さらに多くの人が認知症者を介護しています。現在のところ認知症は根本治療がないため、認知症介護費の大部分は社会支援サービス(ソーシャルサービス)で占めています。ソーシャルサービスの大部分を占めるのは居住型サービスですが、ピアサポートグループ、レスパイトケア、デイケアセンター、自宅で生活する認知症者(PLWD)に重要な活動やケアを提供するフレンドリングサービスなども含まれています。ソーシャルサービスは、認知症者の幸福度や生活の質の向上と関連しています。英国で行われた最近の調査では、認知症者とその関係者は、パンデミックの間にソーシャルサービスの利用が減少したために苦痛を経験したと報告されており、自己コントロールの喪失感、不確実感、介護者の負担の増加などが議論されています。しかし現在までのところ、これらのサービスの縮小が精神的な幸福に与える影響を証明する定量的なデータはありません。本報告はPLWDとその家族や介護者、高齢者を対象とした精神状態と幸福感に関する初めての研究であり、PLWDのためのソーシャルサービス利用がパンデミックによってどのように変化したかを調べます。この横断的な調査は以下の2つを目的としました。

  1. COVID-19の感染予防対策が実施された2020年3月から、高齢者、PLWDとその介護者がソーシャルサービスを利用する際にどのような変化が生じたかを調べる。
  2. パンデミック前からソーシャルサービスを受けていた人たちについて、サービス利用の変化と幸福感・不安・抑うつ症状との関係を調べる。

方法

 65歳以上の高齢者、認知症者(PLWD)、認知症者の現介護者および元介護者を、認知症研究ネットワークを通じて募集しました。レスパイト、デイケアセンター、食事の配達、友人との付き添いなど、COVID-19 流行前(T1)と後(T2)(3 月 23 日の英国ロックダウン以降の1 週間を計測)のソーシャルサービス利用の変動を計算しました。参加者の心理的尺度は、Short Warwick-Edinburgh Mental Well-Being Scale (SWEMWBS) (7つの項目で生活の質を測定し、スコアが高いほど幸福度が高い)、Generalised Anxiety Disorder 7 (GAD-7)(過去2週間の不安を測定し、得点が高いほど不安のレベルが高い)、Personal Health Questionnaire 9 (PHQ-9)(過去2週間のうつ病のレベルを測定。スコアが高いほどうつ病のレベルが高い)を用いました。GAD-7およびPHQ-9が10点以上あれば、それぞれ中等度の不安および抑うつと判定しました。

結果

 本研究には 569 人が参加しました(PLWD61 人、現在の介護者 219 人、元介護者 66 人、高齢者 223 人)。参加者の大多数はオンラインで調査を完了しました(93.5%)。参加者の多くは女性(68%)、白人(97%)、同居者(74%)、退職者(71%)で、ソーシャルサービスを受けるのにそれほど不自由な場所には住んでいませんでした。PLWDの多くはアルツハイマー型認知症(41%)で、混合型認知症(23%)、血管性認知症(14%)と続きました。PLWDは平均70歳(±10歳)、介護者は61歳(±13歳)であり、PLWDと同居していない、あるいはPLWDの介護者ではない高齢者グループは平均72歳(±6歳)でした。教育年数は平均16年(±4年)でした。

 ソーシャルサービスを利用した週の平均時間は、T1で12.0時間(SD=28.5)、T2で6.6時間(SD=29.5)でした。251人の参加者が、T1で何らかのサービスを受けたと報告しました(PLWD31人、現在の介護者156人、元介護者20人、高齢者44人)。そのうち、T1とT2の間の平均時間数の変動は9.0(±23.4)で、T2での時間数が少ない参加者もいれば、時間数が多い参加者もいました。歌やダンスのグループなど、地域社会での社会活動への参加は T1 で最も多く、次いでピアサポートグループへの参加、在宅での有給介護者の受け入れ、デイケアセンターへの参加が続きました。レスパイトケアを利用している介護者はほとんどいませんでした。PLWD と現在の介護者は、T1 と T2 の両方でほとんどのサービスを利用していました。すべてのサービスの中で、有償の介護者支援は最も影響が少なく、すべてのサービスへの利用はCOVID-19ロックダウン以降減少しており(PLWDの有償介護者の利用を除く)、支援サービスを利用していない人の数はすべてのグループで増加していました(サンプル全体では212人(37.3%)から352人(61.9%))。

COVID-19前後のソーシャルサービスの変化
COVID-19流行前(T1)と流行後(T2)のソーシャルサービスの変化

 精神状態と幸福感の関係は、不安(33%)と抑うつ(48%)の両方で基準値を超えたのは、PLWDでした。対照的に、高齢者(OAs)では非常に少ない結果でした(不安感5%、抑うつ感5%)。介護者の中で不安と抑うつの割合は、元介護者(14%、11%)よりも現在の介護者(28%、20%)の方が高い結果でした。ソーシャルサービス時間の変動は、PLWDの不安(p<0.05)、介護者の幸福(p<0.05)、高齢者の幸福と不安(p<0.05)で有意に関連していました。支援時間の変動が大きいほど、不安のレベルが高く、幸福感のレベルが低い結果でした。

COVID-19後の精神状態
COVID-19流行後の精神状態

考察

  今回の研究は、パンデミックがソーシャルサービスの利用制限にどのような影響を与えたかを定量化し、英国の高齢者だけでなくPLWDに関わる人々の生活に与える影響を初めて調査しました。COVID流行以前にソーシャルサービスを受けていた人では、毎週のソーシャルサービスの利用時間数の減少は、介護者と高齢者の幸福感の低下、およびPLWDと高齢者の不安と有意に関連していました。また今回は、うつ病との関連は認められませんでした。

 COVID-19に対する感染対策の結果、デイケアセンター、ピアサポートグループ、コミュニティでの社会活動など、ほぼすべての形態の社会支援サービスは、少なくとも一時的に対面サービスの提供を停止せざるを得なくなりました。今回の参加者の中では、3分の1以上の人がCOVID-19以前から全く支援を受けていませんでしたが、COVID-19流行以降はほとんどの人が社会的支援を受けていないことが分かりました。ソーシャルサービスは、認知症ケアや高齢者のニーズに応えるための重要な役割を果たしており、感染流行後多くの人が孤独感を強く感じています。PLWDや高齢者では、COVID-19流行後に支援サービスを利用できないことは、幸福度の低下や不安の増加と有意に関連していました。PLWDでは、通常の支援サービスを利用できないことが不安の増加を助長していました。PLWDも介護者も、いつどのようにサービスが再開されるかについて高レベルの不安、不確実性を経験していることが明らかになりました。

 介護者にとって、これまで使っていたサービスを利用できないことは、その人の幸福度に大きな影響を及ぼしていました。認知症が進行するにつれて、介護者の負担はますます大きくなり、より多くの支援を必要とするようになります。したがって、PLWDがデイケアセンターに通っている間に介護者が休養をとる、自分のための時間を持つことは、介護者をサポートする上で非常に重要です。COVID-19で利用制限が設けられたことで、こうした機会が突然奪われたため、介護者はPLWDに必要なケアをどのように行えばよいのか途方に暮れてしまう可能性が高いです。そのため、介護者は介護時間を増やしたり、24時間365日介護をしなければならない可能性が高く、本研究で明らかになったように、介護者の幸福度との関連性が高いと説明できるかもしれません。しかし、元介護者も同様の影響を受けており、要介護者が亡くなった後もピアサポートを利用したいという願望や必要性が多くの介護者の間に残っています。したがって、本調査結果は、現在の介護者と元介護者の両方がソーシャルサービスを継続的に利用する必要性を明確に示しています。

 COVID-19に関連した封じ込めは、高齢者の幸福度の低下と不安のレベルの高さにも有意に関連していました。今回の研究で、高齢者は一人暮らしの割合が最も高い結果でした(34%)。高齢者は、COVID-19以前はほとんどが地域社会での社会活動を利用していましたが、これには芸術サークルやその他の趣味などが含まれます。これらの活動は社会的関与と幸福感に関連すると言われています。これまでの研究では、不安と社会的孤立との間に直線的な関係があることが示されています。世界的なパンデミックやそれに伴うストレスは、高レベルの不安にも関係していると思われます。

結論

 ソーシャルサービスは、高齢者やPLWDの心の健康を支えるために不可欠です。COVID-19流行により社会的距離をとる制限が今後もしばらくの間続くと思われるため、社会的支援を必要とする人々のニーズを満たすために、これらのサービスを現在の環境に適応させ、支援を提供する代替方法を模索することが重要です。これは、遠隔支援サービスを提供することで何らかの形で達成することも可能です。現在エビデンスが非常に少ない中で、少しずつ試みられています。しかし、遠隔支援は対面支援に代わるものではないため、高齢者やPLWD、その介護者がパンデミック期間中でも支援サービスを利用できるようにするためには、安全な環境でさまざまな形式を適切に組み合わせて提供する必要があります。社会的支援がケアホームへの入所や予定外入院のリスクを減らすという報告があります。したがって、今すぐ行動してパンデミック前のレベルの社会的支援を可能にすることが重要です。そうでなければ、医療やソーシャルサービスは、コストのかかるケアホームへの入所や医療機関への受診の増加により、過剰な負担を強いられることになります。

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yshima脳神経内科医
認知症専門医の資格を持つ脳神経内科医です。 神経内科専門医・指導医、総合内科専門医・指導医、認知症サポート医。 M.D., Ph.D.