凝固異常に伴う脳血管障害の要点

凝固異常に伴う脳血管障害

 脳血管障害は凝固異常がリスクであり、悪性腫瘍によるものが多いと言われています。頻度は低いですが、先天性としてプロテインC, S欠損、後天性として抗リン脂質抗体症候群、多血症、白血病などがあります。今回、凝固異常に伴う脳血管障害の要点を紹介します。

凝固亢進状態

1.血栓

  • 動脈硬化性病変を基盤として発症する動脈血栓
  • 血流のうっ滞や凝固活性が亢進して発症する静脈血栓

2.血栓性素因

  • 先天性血栓性素因:プロテインC, プロテインS欠損
  • 後天性血栓性素因:抗リン脂質抗体症候群

3.血栓性素因と虚血性脳卒中

  • 血小板異常症:真性多血症・血小板増多症・血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)・ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
  • 血液凝固異常症:抗リン脂質抗体症候群・ホモシステイン血症・プロテインC, プロテインS欠損・AT-III欠損・癌に伴う過凝固
  • 過粘稠症候群:多血症・白血病・異常蛋白症・マクログロブリン血症

スクリーニング検査

  • 抗カルジオリピンIgG抗体
  • 抗カルジオリピンβ2GPI抗体
  • ループスアンチコアグラント
  • AT-III
  • プロテインC活性
  • プロテインS活性
  • 血中ホモシステイン

抗リン脂質抗体症候群(APS)

  • 動静脈血栓症や妊娠合併症を呈する
  • 約半数がSLEに合併する。合併しない場合は原発性APSと分類
  • 男:女=1:5.4と女性に多い。平均発症年齢40歳前後
  • 静脈血栓症では下肢深部静脈、動脈血栓症では脳梗塞が最も多い

治療

  • 抗リン脂質抗体症候群陽性者の脳梗塞再発予防に、第一選択としてワルファリンが使用されるが、十分な科学的根拠がない(グレードC1)。
  • 抗リン脂質抗体陽性者の脳梗塞再発予防においてSLE合併例では副腎皮質ステロイドの投与を考慮してもよい(グレードC1)。

本態性血小板血症

診断基準

主項目のすべて、または主項目3つと副項目1つを満たすことで診断となる

主項目

  1. 血小板 45万/μl以上
  2. 骨髄生検にて巨核球を主とした増殖や過分葉化した核を持つ成熟巨核球を認める。好中球の左方移動や赤血球造血に明らかな異常は認めない。
  3. BCR-ABL1変異陽性のCMLやPV, PMF, MDS, その他骨髄腫瘍の診断基準を満たさない。
  4. JAK-2, CALR, MPL遺伝子変異のいずれかを認める。

副項目

  1. クローン性マーカーを認め、反応性血小板増多症の所見を認めない。

頻度

  • 脳梗塞の原因、本態性血小板血症の頻度は1%未満

血栓症の機序

  • 血小板凝集の亢進
  • 赤血球膜成分や内容物の組成変化による赤血球凝集
  • 凝固阻止因子の低下
  • 血小板凝集に伴う細小動脈の血管内皮障害

脳梗塞の特徴

  • 多血管領域にまたがる即先生機序の梗塞パターンが多い

治療

  • 高リスク(60歳以上、血栓症既往):低用量アスピリン+細胞減少療法(ヒドロキシウレア、アナグレリド(アグリリン®))
  • 低リスク:心血管リスクありまたはJAK2変異陽性の場合は低用量アスピリン。それ以外は経過観察。

真性多血症

診断基準

大基準3つもしくは大基準1,2と小基準を満たすことが必要

大基準

  1. Hb:男性>16.5g/dl, 女性>16.0g/dl。Ht:男性>49%, 女性>48%
  2. 骨髄生検において赤芽球, 顆粒球および巨核球系の著明な増殖により過形成を示す
  3. JAK2V617F変異もしくはJAK2exon12変異をもつ

小基準

  1. エリスロポエチン低値

治療

  • 高リスク(60歳以上、血栓症既往):瀉血+低用量アスピリン+細胞減少療法
  • 低リスク:瀉血+低用量アスピリン

悪性腫瘍と凝固異常

病態生理

  • 腫瘍細胞の接着による血管内皮障害
  • 腫瘍細胞による直接的な血小板の活性化
  • 腫瘍に対する宿主の免疫反応がリンパ球や白血球のprocoagualant activityを発現させ、凝固系を活性化させる

悪性腫瘍に伴う過凝固による血栓症

  • 遊走性血栓性静脈炎(昔はこれをTrousseau症候群としていた。今はより幅広い意味でとらえている)
  • 深部静脈血栓症(DVT)
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)
  • 非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)
  • 血栓性微小血管症(TTP)
  • 動脈血栓症

Trousseau症候群:悪性腫瘍により凝固亢進状態を来し、脳卒中を生じる傍腫瘍性神経症候群の一つ。凝固系の活性化に伴うDICやNBTEなどが脳梗塞の発症誘因となる。

非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)

  • 悪性腫瘍(腺癌)が原因として最も多い
  • 症候性のものでは神経合併症が最も多い
  • DICの合併は25.2%(18.2-41.9%)
  • NBTEの疣贅は炎症反応が欠け、細胞組織に乏しく、遊離しやすい

治療・予後

  • 最大量の未分画ヘパリン静注または低分子ヘパリン皮下注を行う。ワーファリンよりも好ましい
  • 心臓外科手術はリスク・ベネフィットを考慮して選択する
  • Trousseau症候群に伴う脳梗塞の再発では、原疾患の治療に加え抗凝固療法を行うことを考慮する(グレードC1)
  • 癌患者が脳梗塞を発症すると、その後の生存期間は4, 5ヶ月で予後不良。特に塞栓性梗塞は予後不良。各種治療は予後改善に効果なし

癌が潜在していることを疑う所見

  • 原因が特定できない塞栓性梗塞
  • 体重減少
  • 高齢者
  • 画像診断上、多血管領域にわたる大小様々な脳梗塞
  • Dダイマー高値