血中CCL17低値はCOVID-19患者における肺炎重症化の予測マーカーとなりうる

COVID-19

 新型コロナウィルス感染(COVID-19)は、一見軽症・中等症に見えても、突然重症肺炎を発症することがあります。そのためCOVID-19患者のほぼすべてが入院を必要とし、医療施設が圧迫されるだけでなく、限られた医療資源を消費することになります。今回、重症肺炎発症の予測マーカーを同定するために,COVID-19患者からの血液サンプルを用いて,血中ケモカインおよびサイトカインの包括的な解析を行いました。IFN-λ3、IL-6、IP-10、CXCL9、CCL17の5つの因子が重症/最重症の発症を予測する因子として同定されました。因子は2つのカテゴリーに分類され、IFN-λ3、IL-6、IP-10、CXCL9はカテゴリーBとし、重症肺炎の発症前に急上昇しその後急降下しました。CCL17はカテゴリーAとし、SARS-CoV-2感染の初期段階で軽症/中等症と重症/最重症を完全に分類することができました。血中CCL17低値は、他の疾患では見られず、重症化前のCOVID-19患者で特異的に観察されました。今回の5因子は、軽症/中等症と重症/最重症患者を鑑別するための予後マーカーとして有望であり、感染の早期段階でのトリアージが可能となり、医療施設の圧迫を回避できる可能性があります。

Gene. 2020 Sep 14;766:145145. doi: 10.1016/j.gene.2020.145145.

背景

 2019年12月以降、中国から世界的に広がった新型コロナウイルス疾患(COVID-19)のアウトブレイクが発生しました。患者の約80%は風邪や軽度の肺炎に似た軽症/中等症の症状を呈し、残りの20%は酸素投与または人工呼吸器を必要とする重度の肺炎を発症しました。

 本研究では、COVID-19患者から採取した血液を解析し、サイトカインやケモカインを総合的に解析することで、重症・最重症患者を正確に予測できるマーカーを同定することが目的です。有効なマーカーが見つかれば、集中治療を必要とする患者への医療資源の適切な配分が可能となります。また、COVID-19の自然経過を明らかにするために、連続で採取した血液サンプルの体液性因子を分析することで、本感染症の特徴を理解するのに役立つと考えました。

方法

 2020年1月から5月までに国立国際医療研究センター病院に入院したSARS-CoV-2 RNA陽性患者28名を本研究に登録しました。選択した基準は、入院時にCOVID-19の軽症/中等症の症状があること、入院初日に血液検査を行っていること、入院中に連続して血液検査を施行していることです。検証コホートは、入院初期のCCL17を測定するために、58人の患者が登録されました。これらの患者からの血液サンプルは、入院の初日から3日目までの間に採取されました。

 重症度は、厚生労働省「新型コロナウイルスの診断と治療に関するガイドライン」に基づき、軽症、中等症(ガイドラインでは中等症I)、重症(ガイドラインでは中等症II)、最重症(ガイドラインでは重症)の4段階に分類しました。軽症とは、呼吸器症状がなく、画像で肺の異常所見がなく、酸素飽和度(SpO2)が96%以上と定義されました。中等症とは、呼吸器症状が軽度で、肺炎の放射線学的所見がなく、SpO2が93%以上96%未満と定義されました。重症は、酸素投与を必要とするSpO2≦93%と定義されました。最重症とは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で人工呼吸器管理を必要とするものと定義しました。

 血液サンプルに対してケモカイン、サイトカインなど合計 71 種類の体液性因子が計測されました。対照は、C型慢性肝炎(CHC)、児童青年精神医学(CAP)、2型糖尿病(T2DM)、慢性腎不全(CRF)、慢性心不全(CHF)、間質性肺炎(IP)、関節リウマチ(RA)の患者が選ばれました。

結果

 入院数日後に重症/最重症を呈した群では、アルブミン(ALB)、乳酸脱水素酵素(LDH)、C反応性蛋白(CRP)、好中球数が軽症・中等症群と比較して有意な差を認めました。SpO2には差は認められませんでした。重症/最重症群では、軽症/中等症群と比較して高血圧が有意に高い結果でした。

 71の体液性因子のうちCCL17、IFN-λ3、IL-6、IP-10、CXCL9の5因子が同定されました。5つの因子を2つのグループに分類しました。カテゴリーA(Cat-A)はCCL17が含まれ、感染の初期段階では重症/最重症群よりも軽症/中等症群の方が高い値を示しました。Cat-BにはIFN-λ3、IL-6、IP-10、CXCL9が含まれ、感染初期に急上昇し、酸素吸入を必要とする重症化前に急降下しました。CCL17は重症/最重症群では軽症/中等症群に比べて平均値が有意に低いことが判明しました。Cat-B因子のピーク値は、軽症/中等症群よりも重症/最重症群の方が有意に高い結果でした。

COVID-19感染とケモカイン値
青線:軽症/中等症、赤線:重症、黒線:最重症

 予測マーカーのカットオフ値をROC曲線分析で決定しました。重症/最重症の発症を予測するためのカットオフ値は、以下の通りです。

CCL1787.5pg/mL
IFN-λ313.6pg/mL
IL-623.3pg/mL
IP-102151.0pg/mL
CXCL9146.0pg/mL

 COVID-19重症/最重症群と他の疾患でこれら5因子が特異性を持つかを検討しました。すべての因子で有意差を認めましたが、IFN-λ3でC型肝炎が広範囲のばらつきを認めました。またIL-6で関節リウマチが広範囲のばらつきを認めました。IP-10、CXCL9、CCL17は、COVID-19重症/最重症群と特異的に関連していました。

COVID-19と他疾患のケモカイン値

  検証用サンプルを用いた一変量解析では、年齢、発熱、呼吸数、ALB、アスパラギン酸、アミノトランスフェラーゼ(AST)、LDH、CRP、好中球数、リンパ球数に有意差が認められました。検証用サンプルを用いた多変量解析でもCCL17は有意な値を示しました(p<0.009)。検証用サンプルとCCL17を結合したROCカーブ分析では、95.0 pg/mLがカットオフ値でした。この時、感度91.9%(95%CI 82.2-97.3%)、特異度95.8%(95%CI 78.9-99.9%)、陽性的中率98.3%(95%CI 90.8-100%)、陰性的中率82.1%(95%CI 63.1-93.9%)でした。

CCL17

考察

 重症 COVID-19 肺炎発症の予測マーカーを同定するために、多数の体液性因子のスクリーニングを行い、Cat-AとCat-Bと呼ばれる2つのグループに分類できる5つの因子が同定されました。CCL17はCat-Aに含まれ、感染初期の重症/最重症患者で低値を示しました。また、IFN-λ3、IL-6、IP-10、CXCL9はCat-Bに属し、各因子の値が急上昇した後、酸素吸入を必要とする重症化前に急降下しました。これらのデータに基づいて、CCL17は最初のトリアージマーカーとして有用である可能性があり、その後Cat-Bマーカーは、CCL17値が低いまたは境界線上にある高リスク群の重症疾患の発症を予測するのに役立つと考えられます。

 CCL17は胸腺と活性化制御のケモカインであり、胸腺でのT細胞の発生と炎症部位での活性化を誘導します。アトピー性皮膚炎(AD)の進行および喘息の信頼性の高いバイオマーカーとして知られています。重度のADと喘息患者では血清CCL17値が高く、今回の低CCL17発現は初めてのことです。興味深いことに、CCL17値は成人よりも小児の方が高く、この特徴はCOVID-19を持つ小児の多くが成人患者よりも軽度の症状を持つ理由を説明しているかもしれません。

 IP-10は、IFN-λ3を処置した形質細胞様樹状細胞によって誘導されます。IFN-λ3は、病原体に対して免疫細胞から放出される初期分子です。IFN-λ3およびIP-10の上昇は慢性肝炎(CHC)の生化学的特徴に類似していました。

 IL-6とCOVID-19との関連は過去にも報告されています。IL-6の高発現は、RAおよび他の免疫疾患において観察されます。IL-6に対する分子標的治療は、重篤な症状の発現を妨げる可能性があります。

 CXCL9は主に単球によって産生されることが報告されています。他の研究でCOVID-19の進行期にCXCL9レベルが上昇する報告がありましたが、予測マーカーとしては有用ではありませんでした。これは感染初期の血液データの入手に限界があったためと考えられます。

 これらの予測マーカーは、合併症を有するCOVID-19患者で確認されるべきですが、今回の研究では十分なデータが得られませんでした。今回の仮説を確認するためには、各因子の機能についての更なる研究が必要です。

 以上をまとめると,連続した血液サンプルを解析することにより,重症/最重症COVID-19の発症を予測する2種類のマーカーが発見されました.Cat-AマーカーであるCCL17は、重症肺炎を発症した患者の感染初期に減少しました。Cat-BマーカーであるIFN-λ3、IP-10、IL-6、CXCL9は重症肺炎を発症する前に再上昇した場合、重症化の警告になる可能性があります。今回、COVID-19感染における重症/最重症発症の引き金となりうる重要な体液性因子が同定されました。