「認知症の人の心の中はどうなっているのか?」で認知症の人と寄り添う方法を学ぶ

認知症コミュニケーション

 認知症は現在根本治療がなく、予防やケアを重視する方向にシフトしています。認知症のケアはコミュニケーションが重要ですが、認知症者とのコミュニケーションは会話が成立しないことが多く、対応に困っている介護者も少なくありません。本書「認知症の人の心の中はどうなっているのか?」では「日常会話式認知機能評価(CANDy キャンディ)」を用いることで、認知症者との会話の特徴を把握し、その対応法について紹介しています。具体例も載せているので読みやすいと思います。今回は「CANDy」から認知症者の特徴を知り、対応法について説明します。

CANDy(キャンディ)で日常会話から認知症者の特徴を把握する

 「CANDy」は日常会話から15項目の神経認知領域の特徴があるかをチェックし点数化したスケールです(0-30点)。内容は「会話中に同じことを繰り返し質問してくる」「質問しても答えられず、ごまかしたり、はぐらかしたりする」「話が続かない」などの15項目で「よく見られる」=2点、「全く見られない」=0点で点数をつけます。神経認知領域は「家族に関すること」「身体状況に関すること」「興味に関すること」などで5つに分類しています。6点以上を便宜的に認知症疑いとし、該当項目の対応について解説しています。本書にすべての項目を載せています。またマニュアルは登録すればダウンロードできるようになっています。

 日常会話式認知機能評価(CANDy)使用マニュアル

 「CANDy」の15項目をチェックするための会話は30分以上かけて行うことを推奨しています。また1回だけの評価に終わらず、3ヶ月から半年に1回再評価を行い、対象者の会話の傾向が変化していないか確認することを勧めています。

 「CANDy」の意義は従来の認知症スクリーニング(MMSEなど)にあるようなテスト形式ではないため、認知症者に身構えさせずに受けてもらえること、また不正解でプライドを傷つけることがない点です。2017年道路交通法の改正で、75歳以上のドライバーが免許更新時に認知機能検査を受けることが義務付けられました。その際、目標点数をとれなかった対象者は医療機関で検査・診断を受ける必要があります。本書では診断を受けるよう指示されたドライバーが医療機関には行かずに自主返納したケースがかなり多かったと記載しています。再び自分が能力を試され診断をつけられることに苦痛を感じる人が多かったと考察しています。これは自分が失格の烙印を押された上に免許証も取り上げられる可能性があるのですからわざわざ行きたいと思わないのは理解できます。しかし睡眠不足だった、質問の意味を理解していなかった、耳が遠かったなどの原因もあり、その場合は再検査を受ける選択もあります。少し裏技になりますが、認知機能検査は問題が公開されているので事前に予習をするやり方もあります(警察庁が公開しています)。本当に認知症なら予習をしても忘れていますので。

認知症者は言語コミュニケーションだけでなく非言語コミュニケーション能力も低下している

 本書で挙げている非言語コミュニケーション能力低下は、場の雰囲気にそぐわない喋り方をする、会話の反応が遅い、些細なことで怒り出す、一方的に話し続けるなど、いわゆる「空気が読めない」対応を示しています。これは認知症になると、注意・記憶・見当識・社会的認知の能力が低下するからです。言葉を表面上の意味だけで捉えるようになり、他者の感情も共感しにくくなります。

 アルツハイマー型認知症患者は「怒り」「悲しみ」「恐怖」の表情を理解しにくくなっているという報告があります。つまり自分のとった行動による相手の感情、反応が読めなくなっているため、場違いな言動が目立つようになります。一方、「嫌悪」「驚き」「喜び」の感情は比較的理解しているそうです。つまり介護者は「怒り」や「悲しみ」を見せてもあまり反応がなく、「嫌悪感」だけはしっかり伝わるため、関係がギクシャクしやすくなります。逆に常に「喜び」を見せれば、相手は経緯を忘れても介護者に好感を持ちやすくなると考えられます。

認知症者は自分が自分でなくなる苦しみを抱いている

 本書では認知症になると直面する苦しみについて取り上げています。多くの苦しみを紹介していますが、「自分が自分でなくなる苦しみ」が特に大きい苦しみと思います。1998年「精神看護」に掲載された「認知症の患者さんが体験していること」で以下を挙げています。

  1. まわりの世界と自分の世界がずれていく
  2. まわりの世界がつかめない
  3. まわりの世界が自分を脅かす
  4. 自分の身体が自分を脅かす
  5. 自分自身が崩れる
  6. 大切な出来事や大切な人が、今まさにここに存在する

 自分自身が壊れていく恐怖が伝わってきます。6番は新しい記憶はなく、昔の記憶をつなぎ合わせて自分の世界を保とうと足掻いています。本書では、「自分が認知症だと知る苦しみ」「相手に合わせざるを得ない苦しみ」「人に見せたくない自分を見せてしまう苦しみ」を解説しています。自分ができないことを認めるのも苦しいが、自己決定できない辛さ、できないことを知られる苦しみがあることを示しています。

 最後の章で本書は認知症者と共に暮す方法について解説しています。「認知症者の世界を大事にする」行動として「以前呼ばれていた敬称を続ける」「怒らない、否定しない、共感することを意識する」「関わる前の状態を把握する」「認知症の人の立場に立って考える」を挙げています。例えば「赤ちゃんが生まれる、お産婆さんを呼んで」と毎日叫ぶ入所者をどのように解釈し、どう行動したかの具体的な話が出ています。本例は赤ちゃんの人形を渡すが正解でした。

 実際の行動として、本人・介護者とも気軽に立ち寄れる「認知症カフェ」の参加、手続き記憶を利用して習慣化されている行動を継続させる、ポジティブな感情を共有するため「笑うラジオ体操」を行うことを勧めています。介護の対応よりも実生活に即した活動を勧めているのが印象的でした。