認知症でみられる高次脳機能障害まとめ

高次脳機能

  認知症でみられる高次脳機能障害で最も有名なのは記憶障害です。アルツハイマー病は記憶障害の中で近時記憶とエピソード記憶が障害を受けやすいと言われています。他には、失行・失認・失語などが含まれます。本記事では認知症でみられる高次脳機能障害をまとめました。

背景

 認知症の高次脳機能障害を評価するには神経心理検査が必要である。古くからあるこれら検査法は、最近の神経画像法の技術的進歩により補助的な役割に落ち着いているが、まだ完全に代用できるものではない。神経心理検査は、認知・行動障害の評価において極めて重要な役割を果たしおり、診断、患者ケア、リハビリテーション、研究に貢献している。

 神経心理検査は以下の領域を評価する。

  • 意識(覚醒レベル)
  • 注意力と集中力
  • 遂行機能
  • 記憶
  • 言語
  • 計算
  • 視空間認知
  • 実行機能(行為)
  • 社会認知機能

 これらの領域は、認知症により特徴的な影響を受けている。以下に高次脳機能障害の特徴と初期からみられる認知症疾患をまとめる。

中核症状の種類

高次脳機能症候特徴初期からみられる認知症疾患
全般注意注意障害注意を向けて作業ができない。作業ミス。集中力低下。認知症全般
遂行機能遂行機能障害段取り良く作業できないFTD
記憶健忘前向性:新しいことを覚えられない。 逆向性:発症前のことを思い出せない。AD, DLB
言語失語発話・呼称・理解・復唱障害・失読原発性進行性失語 (AD, FTD)
 失書書字障害、文字想起困難認知症全般
計算失算計算できない認知症全般
視空間認知構成障害図形模写障害AD, DLB
 地誌的失見当識道に迷うAD
 錯視、幻視物体を別のものに錯覚する。実際にないものが見えるDLB
行為肢節運動失行手足の動きの拙劣さCBD
 観念運動失行パントマイムができないCBD
 観念失行道具が使えないCBD
社会認知脱抑制状況にそぐわない行動FTD
AD:アルツハイマー病、DLB:レビー小体型認知症、FTD:前頭側頭型認知症、CBD:皮質基底核変性症

注意障害

数字の順唱・逆唱テスト(digit span forward/backwards test)

 注意力の評価は、数字の順唱テストが最も頻回に行われる。検者は、1 秒間に 1 つの数字の割合でランダムな数字の列を暗唱する。患者には、数字の列を同じ順番で繰り返してもらう。成功した試行が続くと、数字の桁数を増加させる。通常の前方スパンは、年齢や教育レベルに関係なく、成人では7桁±2桁である。

 少し難易度が高く、感度が高いのは、数字を逆唱する課題で、患者に数字の並びを逆順に繰り返すよう求める。正常の数字の逆唱は4桁以上である。

 他の注意力テストには、連続の引き算、単語を逆から述べるなどがある。しかし、これらの他テストの解釈は、標準的なデータが少ないことや、全体的な特異性を低下させる有意な年齢、性別、教育効果によって制限されている。より複雑なテストには、Trail-Making Testがある。

記憶障害

1)内容による分類

  • 陳述記憶
    • エピソード記憶:日々の体験や出来事の記憶
    • 意味記憶:言葉や概念などの一般的な知識の記憶
  • 非陳述記憶
    • 手続き記憶:身体で覚えた技能など言語化できない記憶(自転車に乗れる)

2)時間による分類

  • 即時記憶(数秒)
    • 作業記憶:数字の逆唱、電話番号を覚えるなどの情報を一時的に保持しておく記憶
    • 短期記憶:数字の順唱、復唱などそのままの形で一時的に保持する記憶
  • 近時記憶:数分から数ヶ月
  • 遠隔記憶:遠い昔
  • 予定記憶:これから起こす行動についての記憶。退勤時に家に電話をする。朝、手紙をポストに投函する。

 ADで障害されやすいのはエピソード記憶と近時記憶。症状が進行すると、意味記憶、作業記憶、遠隔記憶も障害される。手続き記憶は末期まで保たれる。

失行

失行障害部位症状
観念失行優位角回使い慣れた道具を使用できない。手紙を折って封筒に入れることができない・
観念運動失行優位縁上回模倣ができない。マッチを擦る真似などができない。
構成障害上頭頂小葉+下頭頂小葉積み木、図形の模写ができない(空間的構成ができない)
着衣失行劣位上頭頂小葉+下頭頂小葉衣服の着脱ができない
肢節運動失行中心前回または中心後回手指の巧緻運動障害

失認

失認障害部位症状
視覚性失認  
物体失認優位腹側視覚野 (視覚前野-側頭連野)視覚情報と記憶が照合できず何であるか分からない。味など視覚以外の情報で何であるか分かる
相貌失認劣位腹側視覚野 (視覚前野-側頭連野)視覚情報と記憶が照合できず何であるか分からない。声など視覚以外の情報で何であるか分かる
聴覚性失認  
環境音失認劣位聴覚周辺野認識した音と記憶が照合できず何の音か分からない。
身体失認  
身体部位失認優位頭頂葉後方身体部の名称を言われたり、触られてもその部位を認識できない
病態失認劣位頭頂葉広範麻痺があっても状態を否定する
地誌的見当識障害  
視空間性障害頭頂葉自己身体から見た視空間性定位障害
ナビゲーション障害後部帯状回地図のイメージと道順の障害
ランドマーク失認紡錘状回目印となる建物・風景の失認
前向性見当識障害海馬傍回新たな空間情報の記憶障害

遂行機能障害

 遂行(実行)機能とは、自発性、計画性、目的を持った行動、および効果的なパフォーマンスを含む一連の複雑な能力のことである。これらの技能は、適切な、目標に向けられた、社会的責任のある、利己的な行動を可能にし、前頭前野および尾状核との連絡によって支えられている。

 臨床面接では、特に日常活動の遂行困難が報告されている場合、患者の実行機能の概要を知ることができる。洞察力や判断力の低下は、実行機能障害の初期指標である。これらは病歴で評価するのが最善である(例:「どのような問題を抱えていると思いますか」「小さな配管の水漏れなどの家庭内の緊急事態にどう対処しますか」)。また、「料理ができなくなった」「今まで使えていた電気機器が使えなくなった」「行事でどうしたら良いか分からずパニックになる」などの訴えで診断する。