徘徊・物盗られ妄想など認知症で困る行動(BPSD)について認知症専門医が行っているアドバイスを解説します

徘徊

 認知症の症状は物忘れ(記憶障害)、見当識障害(時間・場所が分からなくなる)、判断力低下を代表とする中核症状と徘徊・妄想・易怒性を代表とする行動・心理症状(BPSD)の2つに分類されます。介護者が実際に何とかして欲しいと感じている症状は「中核症状」よりも「BPSD」の方が非常に多いです。今回BPSDで対応に困るという声が多い7つの症状を取り上げ、実際に認知症専門医が行っている対応法について解説します。

物盗られ妄想

 「物盗られ妄想」は記憶障害によりお金や物の場所を忘れ、失った記憶を補うために「誰かが盗んだ」「誰かが隠した」という妄想に変化する症状です。盗んだ犯人は一緒に暮らしている家族に向かうことが多いです。この症状は訂正不能で、家族が否定すると激高し余計に関係がこじれるやっかいな症状です。

対応

  1. 「おやつを食べてから探しましょう」「買い物に一緒に出かけましょう」など違う話題を提供して、関心を別のものに向かわせます。数分後、物を盗られた話題を忘れていることがあります。
  2. 頭から否定する、感情的に怒鳴ることをせず、ゆっくり話を聞いてみます。共感の態度を示すことで「犯人」から「協力者」に変わり態度が軟化することがあります。

徘徊・帰宅願望

 「帰宅願望」は夕方になると「家に帰る」と言って荷物をまとめる、外に出ようとする症状です。「夕暮れ症候群」とも呼ばれ、アルツハイマー型認知症で時々みられます。夕方になり暗くなると不安感が強くなるためと言われています。また自宅にいるのに「家に帰る」と話すのは、今住んでいる家ではなく子供の時に暮らしていた生家のことを話している場合があります。

対応

  1. 「一緒に行きましょう」とついていき、近所を1周して家に戻ります。目的地が遠方の場合は自動車に乗せて周囲をドライブした後に家に戻ります。道中で別の話題を提供し、関心をそらします。戻ってきた頃には忘れていることがあります。
  2. 「先に食事にしましょう」「今日は遅いので明日行きましょう」と別の話題を提供し、関心を別にそらします。
  3. 知らない間に出ていくことがありますので、警察や近所の人に事情を話しておく、衣服に名前・連絡先を記入する、玄関にセンサーを設置するなどの対応を行い、徘徊による事故を防止します。

家に閉じこもる、デイサービスを嫌がる

 コミュニケーションが苦手なヒト、自尊心が強く弱みを見せたくないヒトによく見られます。若い人でも理由もなく外出をすすめたり、イベントに参加するように言われても戸惑います。そのため本人に物忘れ予防やリハビリのためと目的を話すことは大事です。ただその場では納得してもいざ当日になると一転拒否することがあります。介護者が頭を悩ませる症状です。

対応

  1. 本人が最も信頼しているヒト(家族や介護スタッフなど)から外出やデイサービスをすすめてもらいます。かかりつけの先生が勧めることで受け入れることもあります。
  2. 最初は家族が同伴してデイサービスに参加します。レクリエーションが気に入ったり、知人ができると自然に一人で行くようになることもあります。
  3. 同性の利用者が少ない、レクリエーションが本人の嗜好に合わないことがあるため、本人が受け入れられる施設やサービスに変える必要があります。

トイレに何度も行く、トイレで失敗する

 認知症者は泌尿器系の病気を合併していることが多いです。男性の場合は前立腺肥大、女性の場合は神経因性膀胱に罹患していることがありますので泌尿器科を受診して器質疾患の有無を調べる必要があります。またトイレの失敗を心配して何度も行こうとすることがあります。これは失敗に対する不安・焦燥が強くなっているため起こっています。

対応

  1. 器質疾患がある場合はまず適切な治療を受けます。
  2. 時間を決めてトイレに行くよう促します。すぐに行こうとする場合は時計を見せて「4時に行ったので次は7時に行きましょう」と誘導します。
  3. トイレまでの道順を張り紙で分かるようにします。トイレの場所が分からず不安になり何度も行くことがあります。

何度も同じ話をする

 認知症者は最近の記憶(近時記憶)を忘れるため、繰り返し同じことを聞いてきたり、話したりします。2-3回なら良いのですが、5回を越えるとイライラしてきつく当たってしまうかもしれません。本人にとっては1回目のつもりなので怒りをぶつけられたことにショックを受け関係がこじれることがあります。本人の関心事をいかにそらすかが大事になります。

対応

  1. 何度も食事のことを聞いてくる場合は、「食事の前に部屋を片付けましょう」と返事をして別の話題に切り替えます。
  2. 今日こんな出来事があったと同じことを話してくる場合は、「お話をしながら洗濯物を畳んでもらえませんか」など別の作業を頼んで関心事をそらします。

自動車の運転をやめさせたい

 認知症と自動車事故は社会問題になっています。現在、75歳以上のドライバーが免許を更新する、事故を起こした際は認知機能検査を受けることになっています。基準値を満たないドライバーは医師の診断書が必要になります。ここで認知症の診断を受けると、免許の停止もしくは取り消し処分を受けることになります。認知症の自覚がないヒトは自分が運転できないことを忘れていますので介護者は対応に頭を悩ませます。

対応

  1. 物理的に自動車を処分(売却)するのが一番の方法です。目に入るとどうしても運転しようとします。故障したので処分した、もう少しマイルドに話す時は修理に出したと伝えます。鍵を隠す方法もありますが、本人が納得しなければ関係がこじれてしまいます。
  2. 「高齢になり事故が怖いのでやめましょう」と信頼できるヒトから説得してもらいます。特にかかりつけの先生から話してもらうのが効果的です。本人に確認させるため、運転禁止の文言を一筆書いてもらうのも良いかもしれません。

夜に寝ない、昼にウトウトしている

 認知症者は睡眠サイクルが壊れていることがあります。最終的に薬物治療に頼らざるをえない場合がありますが、まずは環境を改善することから始めます。

対応

  1. 日中動いていないときは体が疲れていないため眠れません。散歩でも良いですので体を動かし、体が休養を求めるよう促します。
  2. 外に出て太陽の光を浴びます。日光は睡眠ホルモンと言われるメラトニンの分泌を抑制します。メラトニンは夜になると分泌され、睡眠を促します。一日中暗い部屋にいるとメラトニンがうまく働かず、規則的な睡眠がとれなくなります。また時計を見せることで今が昼と意識させることも大事です。
  3. 昼寝は30分以内なら睡眠サイクルの調節に有効と言われています。短時間の昼寝は問題ありません。しかし1時間をこえると夜眠れなくなり、昼夜逆転を起こすことがあります。

 以上、認知症で困る行動の対応法について解説しました。現在のBPSDガイドラインでは、まず環境調整などの非薬物治療で対応することになっています。しかし実際はマニュアル通りにいかず苦労しているケースが多いです。「認知症ちえのわnet」が認知症の対応に困った事例とその対応法を集計しています。様々な方法が公開されていますので自分達に合ったものを試してみるのも良いでしょう。

 環境調整でもうまくいかない場合は薬物治療を合わせて行います。短期間使用し、症状が落ち着いたら速やかに終了します。注意として薬物治療の多くは鎮静をかける方向になりますので、一日中寝るようになった、元気がなくなった、食事を摂らなくなったなどの症状が出る場合は薬の影響が疑われます。主治医に相談してください。