高齢者でみられる意欲低下(アパシー)とうつ状態の鑑別

うつ病

 昔に比べて「元気がなくなった」「やる気が無くなった」「家に閉じこもりがちになった」という高齢者を時々見かけると思います。この状態は「意欲低下(アパシー)」と「うつ状態」、両方の可能性が考えられます。両者とも高齢者で多くみられ、特にアパシーは認知症の行動・心理症状(BPSD)の中で最も頻度が高い症状と言われています。両者は対応法が異なりますのでしっかり鑑別する必要があります。本記事ではアパシーとうつ状態の鑑別法と対応法について解説します。

アパシーとうつ状態

 アパシーとうつ状態の違いを以下で示します。

 アパシーうつ状態
病態感情の発生・表出が異常に低下長期間続く気分の落ち込み
症状意欲低下、無関心悲哀感、焦燥感、喜びの喪失
認知症との関連認知症のBPSDの1つ合併することがある
治療ニセルゴリン(サアミオン®) コリンエステラーゼ阻害薬抗うつ薬 十分な休養

 アパシーは感情の発生・表出が困難となり、行動を起こす動機づけに関する機能が障害されています。前頭側頭葉変性症の代表的な症状ですが、アルツハイマー型認知症でも最も多く見られるBPSDです。アパシーは自発性・意欲の低下、周囲への無関心を示し、そのことに不安や苦痛を感じず、自分の状態にさえ無関心になります。不穏・興奮と比べて目立たない症状のため気づかれない、そのまま経過をみられているケースが多いです。一見介護負担の少ないBPSDに思われがちですが、治療が難しく、症状が進行すると食事摂取や移動の意思もなくなり、衰弱に至るリスクが高い症状です。

 うつ状態は長期間続く気分の障害で、アパシーと違い感情の表出はみられます。症状に対する病識があり、悲観的で積極的に意欲のなさや抑うつ気分を訴えます。身体の不快感、自責感、希死念慮があるときはうつ状態を考えます。うつ状態の治療は抗うつ薬を用いますが、アパシーでは抗うつ薬を用いても効果がみられず、逆に悪化することがあります。脳梗塞後遺症の意欲低下に使うニセルゴリン、アルツハイマー型認知症の治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬が有効の場合があります。

アパシーの機序

 アパシーは前頭側頭葉変性症のうち「行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)」の診断基準に含まれます。bvFTDは3つの基底核-前頭葉皮質経路が障害されています。

前頭葉皮質-基底核経路
前頭葉基底核視床経路

上の図をまとめると、

 役割障害された際の症状
①背外側前頭前野皮質-基底核経路遂行機能皮質下認知症(遂行機能障害)
②前帯状回皮質-基底核経路自己賦活アパシー、無動・無言
③外側眼窩面皮質-基底核経路情動的価値判断脱抑制、無関心

 前帯状回皮質-基底核経路が障害されるとアパシーを起こしやすくなりますが、他経路の障害でも遂行機能障害による活動量低下、周囲への関心欠如による閉じこもりを起こすことがあります。またラクナ梗塞、血管性認知症は基底核の虚血を伴うことが多いですのでアパシーが出現しやすくなります。

アパシーの評価

 アパシーは「やる気スコア」(42点満点で16点以上をアパシー)や「意欲の指標」(10点満点で低いほどアパシーが強い)で評価します。日常生活で評価する場合は以下の通りです。

  1. 食事を自分から摂らない
  2. トイレに行かない、トイレに行く意思を見せない
  3. デイサービス、催し物に参加しない
  4. 話そうとしない
  5. 日中寝てばかりいる

 睡眠薬などの薬の影響や疾患の発症がないことを確認した上で、これらの状態が多く当てはまる場合、アパシーと判断します。治療は、アルツハイマー型認知症の場合はコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル®など)、脳血管障害の場合はニセルゴリン、アマンタジン(シンメトレル®)が有効の場合があります。傾眠リスクのある睡眠薬、抗精神病薬を服用している場合は減量、中止を考えます。

 環境面の調整として、昼夜逆転にならないよう日中は日の光を浴びるようにする、定期的に食事・トイレを促し習慣化させる、遂行機能障害で行動できない場合は内容を単純化して簡単な作業(塗り絵など)を頼む、好きな趣味や活動を見つけて参加を促すなどを行います。アパシーは派手な精神症状でないため見過ごされがちなBPSDです。しかし気がつくと栄養障害、廃用症候群に至り、寝たきり状態の期間を早める予後の悪い症状です。身体症状が出現する前にデイケアやリハビリテーションの利用など早めの介入をオススメします。

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