加齢による物忘れ(健忘)と認知症の見分け方

健忘と認知症

 年を重ねると物忘れの頻度が増え、自分が認知症ではないかと心配することがあります。しかし加齢からくる物忘れ(健忘)と認知症の記憶障害は区別がつきにくいことが多いです。本記事では年齢からくる物忘れ(健忘)と病的な物忘れ(認知症)の見分け方について解説します。またMini-Cogを用いた認知症の早期スクリーニング法を紹介します。

加齢による物忘れと認知症の違い

 年をとると「人の名前が思い出せない」「用事をうっかり忘れてしまった」という経験が増えてくると思います。ここで加齢による物忘れ(健忘)なのか認知症外来で診察を受けた方が良い物忘れ(認知症)なのかを鑑別する必要があります。

健忘と認知症

 まず、加齢による物忘れの場合は、以前用事や人の名前を聞いた、覚えたという記憶が残っています。しかしそれをうまく取り出して再生することが困難になっています。この場合、ヒントや用事を書いたメモを読むことで思い出しますので、生活の工夫次第でトラブルを防ぐことができます。目に付きやすいところに用事のメモを貼り付ける、ホワイトボードに用事を書くなどの対処を行います。

 一方、認知症の物忘れは「覚えたことも忘れている」ため、ヒントやメモを見せられても思い出すことはありません。残っている記憶で代用することも難しいため、生活に支障をきたす場合があります。そのため「物忘れ」よりは「記憶できない」と表現した方が良いかもしれません。

健忘と認知症2

 認知症の記憶障害は聞いた数秒前のこと(即時記憶)は保たれていることが多いですが、数分前の出来事(近似記憶)は忘れています。一方、数十年前の古い記憶(遠隔記憶)は保たれているのが特徴的です。認知症の人が昔のことをよく話すのは、最近の記憶が保てず、古い記憶のみ残っているためです。

 また最近の記憶でも強い感情を伴った記憶は覚えていることがあります。これまでにない楽しい経験をする、逆に悔しい、腹立たしい、心配する経験をした時、何度もその話題を持ち出すことがあります。詳しい内容は忘れても楽しい、不快な記憶は残っていますので、すぐに忘れるからとその人を軽視する態度で接すると人間関係が破綻する可能性があります。逆に楽しい経験、嬉しい経験をした時、一緒にいた人のことも好意的に感じることがあります。

認知症の定義

 認知症の診断基準は世界保健機構(WHO)による「国際疾病分類 第10改訂版」(ICD-10)と米国精神医学会による「精神障害の診断と統計の手引き 第4版テキスト改訂版」(DSM-IV-TR)があります。また2011年にNational Institute on Aging and Alzheimer’s Association workgroup(NIA-AA)からアルツハイマー病による認知症の改訂診断基準が発表されました。以上をまとめ、「認知症ハンドブック」(医学書院)では、以下の条件を満たす場合に認知症と診断するとしています(一部簡略化しています)。

  1. 記憶障害を中核に、失語・失行・失認・遂行機能障害などの複数の認知機能障害がみられる。
  2. 一旦発達した知能が後天的な障害(脳の器質的な異常など)で低下した状態である。
  3. 急性・一時的なものではなく、持続した症状である(6ヶ月以上)。
  4. 認知機能障害により社会生活や日常生活に支障を来した状態である。
  5. せん妄などの意識障害がない。

 まず認知症は複数の認知機能障害を持ちます。物忘れだけでは認知症とは言えません。逆に物忘れがなくても遂行機能障害や失行があれば認知症と定義されます。

 精神発達遅滞は認知症ではありません。一旦知能が発達していることを条件としています。

 せん妄は何らかの原因で意識が減損している状態で基本的に意識障害に分類されます。認知症は意識障害がなくても認知機能障害を認める状態となります。

 せん妄認知症
発症急激緩徐
初発症状幻覚、妄想、興奮記銘力低下
日内変動夕方、夜間に悪化時間帯によらない
持続数日から数週間永続的
身体疾患合併していることが多い時にあり
薬剤の関与多いなし
環境の関与多い少ない

 認知症の人がせん妄を起こすこともあるので鑑別が難しいこともありますが、せん妄は基本的に急性の変化で原因を取り除くと可逆的に戻ります。

Mini-Cogによる認知症簡易スクリーニング

 「Mini-Cog」は3語の即時再生と遅延再生、時計描画を組み合わせたスクリーニング検査です。短時間で施行できるのが利点です。詳細は「Mini-Cog」の解説ページを参照してください。方法は下の通りです。

  1. 「バナナ」「日の出」「椅子」などの3単語を伝え、その場で話してもらいます。
  2. 時計の文字盤を描いてもらい、11時10分の針を書いてもらいます(文字盤1点、針1点)。
  3. 先程覚えてもらった3単語を答えてもらいます(3点)。

 5点満点で2点以下が認知症疑いです。感度76-99%、特異度83-93%で、MMSEと同様の妥当性を有します。「認知症ではありませんか?」と質問された時に、このテストを行えば大まかなスクリーニングになります。点数が2点以下だった場合はMMSEやHDS-Rなどのより詳しい認知機能検査を行うのが良いでしょう。

以下の記事も参考にしてください

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