「アルツハイマー病 真実と終焉」を医師の私が少し分かりやすく解説しました

アルツハイマー病 真実と終焉

 本書「アルツハイマー病 真実と終焉」は医学知識や生化学知識がないと熟読が困難な書籍です。ただ認知症予防の実践は具体的に書かれていますので、第8章の「リコード法 認知機能を回復する」から読み始めて、詳細を知りたくなった時に該当する章へ戻る読み方が良いかもしれません。本書は「リコード法」がアルツハイマー病の最適な予防法と断言しています。今回認知症専門医の私が本書を読み解き、重要ポイントと個人が実践できる予防法について解説します。

アルツハイマー病の36個の危険因子

 まず本書のアルツハイマー病予防に対する重要なメッセージを述べます。アルツハイマー病は単一の予防法では効果がなく、36個の危険因子に対して雨漏りを塞ぐように網羅的に対応する必要があります。その危険因子も人によってバラバラで、衣服のオーダーメイドのように個人の特性に合わせて対応する必要があります。疾患の治療は個人の病状に合わせて治療をする必要があるのでこの考えは当然と言えます。それではその危険因子は何かですが、本書の一覧表を見るとなぜか55個に増えています。おそらく各項目をグループ化して36個にしているものと推察します。内容は医療従事者でも一読では理解できないミクロな作用を挙げているので、36個のリスク因子のスクリーニングは医療機関に任せるしかありません(「LTP(長期増強)の亢進」「自食作用の増加」のような作用を書かれてもイメージできないと思います)。

 本書の中に医療機関で行えるリスク因子の検査一覧が掲載されています。抜粋すると遺伝子検査、血液検査、頭部MRI検査、認知機能検査、睡眠検査などです。この中には物忘れ外来でも行われている甲状腺ホルモン、ビタミン系、電解質が含まれています。詳細は「治せる認知症について解説します」で解説しています。一方、保険診療では依頼しづらい重金属、炎症性サイトカインなどが多数含まれています。全員にこれらの検査を保険診療で行うと国家の医療費はあっという間に破綻してしまいます。この検査リストは自費で受けることができる経済的に余裕のある人が対象と考えます。ただ、実際に物忘れ外来をした時、参考にしたい項目がいくつかありました。物忘れ外来でも検査可能な追加項目を紹介します。

  1. ホモシステイン:高ホモシステイン血症が血管障害のリスク因子であることはすでに知られています。高血圧や糖尿病のような動脈硬化リスク因子がないにも関わらず、頭部MRIで動脈硬化変化が強い場合やビタミン欠乏症がある場合は本検査を追加する必要があります。
  2. ビタミンB6、ビタミンD:本人の食事内容や体型、骨粗鬆症の既往歴で追加する必要があります。
  3. 銅、亜鉛:亜鉛欠乏症は認知症リスクとの関連性がよく言われるようになっていますので、ルーチンで入れても良いかもしれません。銅/亜鉛比を見るため、銅も合わせて依頼します。
  4. 睡眠検査:睡眠時無呼吸症候群が認知症リスクに関連します。熟眠感があるか、無呼吸時間がないかを病歴で確認する必要があります。
  5. 病歴:頭部外傷歴、全身麻酔歴、歯科用アマルガム充填、移植手術、慢性副鼻腔疾患は既往歴、手術歴で確認していますが、これらは今後特に意識して確認をとりたいと思います。服薬歴で抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、プロトンポンプ阻害薬、違法薬物は認知症リスクとして以前から言われていますが、降圧薬、スタチンは血管障害、認知症リスク軽減作用もありますので慎重な対応が必要です。

 逆に必要と分かっても依頼しにくいのはAPOE遺伝子、ホルモン系(甲状腺ホルモンを除く)、炎症性サイトカイン、感染症の抗原抗体検査(梅毒抗体は除く)、水銀などの重金属です。臨床症状や画像検査で疑いがなければ保険審査で切られる可能性が高いです。

個人でも実践可能な認知症予防術

 本書では非常に多彩な認知症予防法が記載されています。この中で実行しやすいものを取り上げます。

  1. 朝ごはんまで12時間空ける、 夜ごはんは就寝3時間前までにとる:最後の食事から12時間以上空けることでインスリンの感受性を高めます。また就寝3時間前までに夕食を摂るのは、夜間の急激なインスリン上昇を防いで、インスリン抵抗性、メラトニン・成長ホルモンの分泌障害を抑える効果があります。高インスリン血症があるとインスリン分解酵素が活性化します。実はインスリン分解酵素はアミロイドβタンパクの分解酵素でもあるため、インスリン分解ばかり機能すると、アミロイドβ分解系が十分働かず、アルツハイマー病の発症リスクが高くなります。
  2. フルーツジュースより果物(繊維を含む)をまるごと摂取する:まるごとの果物は、栄養素密度が高く繊維が多いため、食後のデザートとして勧められまする。その際、糖分の過剰摂取に注意が必要です。
  3. アボカド、ナッツ、オリーブオイルなど、良質の脂肪を食事に取り入れる:飽和脂肪酸は主に動物性の脂肪に含まれますが、不飽和脂肪酸はナッツ、オリーブオイルなどに含まれます。本書では不飽和脂肪酸の摂取を推奨しています。
  4. 座りっぱなしは避け、定期的な運動を推奨:運動が有用であることは以前から言われていますが、「座ること」が認知機能や心血管系の健康に有害であるという研究結果が出ています。認知機能に最適な運動内容は、ジョギング、ウォーキング、エアロビクス、ウェイトトレーニングをミックスさせ、1日辺り45-60分、週4-5回を推奨しています。
  5. 1日8時間に近い睡眠をとるように心がける:まず睡眠時無呼吸症候群がある場合は治療を受ける必要があります。また夜間に起きてしまう場合、閉経・ホルモンバランスの異常・うつ病・ストレス・胃食道逆流症がないか注意する必要があります。また夜間頻尿がある場合は泌尿器科での治療が必要です。
  6. ストレスは認知機能低下やアルツハイマー病のリスク要因を増やす:ストレスは食事摂取のバランスを崩し、肥満・高血糖などを引き起こします。またストレスはアルツハイマー病のリスク要因を増やすと言われてます。本書で紹介しているストレス軽減法は、横隔膜からゆっくり深く数回深呼吸することです。つまり瞑想を行っても良いかもしれません。他には休暇を取る、スパに行く、好きな音楽を聴く、くつろいで散歩をするなどを勧めています。

 本書は今回紹介した以外に脳トレーニングなど多くの予防法について解説しています。本書の予防法を実践するためには複数の手順をとる必要があります。

 まず認知症のリスク因子を見つけるために医療機関を受診し、自分のリスク因子を知る必要があります。次にそのリスク因子に対して最適な予防法を実践します。効果があらわれるのに最低半年はかかりますので定期的なフォローが必要です。これを実践できる医療機関はかなり限定されると思います。少なくとも保険診療では不可能です。受診者に検査と治療にかかる費用を自費で賄えるだけの財産を持ち、リコード法を実践できる自由時間を持てることが条件になります。医療機関側はリコード法で推奨されている検査が可能な施設を持ち、受診者とマンツーマンで対応できるだけの人員を必要とします。理想は人類全員が参加できることですが、現実は健康意識の高い富裕層が対象になるでしょう。今後は本書の理論からどれだけ万人が実践可能な画一性を持たせられるかが(筆者は1対1の治療を推奨し、平均化した集団治療は困難と考えていますが)、予防医療の観点から求められていくと考えます。

 それでは具体的なアクションプランですが、まずは健康診断を受けて、本書に記載があったリスク因子を見つけることから始めてください。もし見つかればそれに対する治療を始め、もし明確なものが見つからなければ、本書の中で自分が実践できると思うものから始めるのが良いと思います。

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yshima脳神経内科医
認知症専門医の資格を持つ脳神経内科医です。 神経内科専門医・指導医、総合内科専門医・指導医、認知症サポート医。 M.D., Ph.D.