6時間未満の短時間睡眠はアルツハイマー病発症の予測因子になりうる

睡眠とアルツハイマー病

 睡眠時間とアルツハイマー病(AD)との関連性を指摘する報告が増えています。しかしADの発症経過中に睡眠時間の変化が起こるのかについてはまだよく分かっていません。今回、Annals of Neurologyからの報告で、筆者らはベースラインで認知症のない欧州の40万6,536人の参加者を対象に、ADの遺伝的リスクスコア(AD-GRS)を用いて、ADの発症を睡眠時間から予測できるかを検討しました。結果はAD-GRSが高い例ほど6時間未満の短時間睡眠(b= -0.014, 95%CI: -0.022, 0.006)に関連しており、特に55歳以上の高齢者で関連性が高い結果を認めました。またAD初期では睡眠時間が1.87時間短い結果でした(95%CI: 0.96, 2.78)。今回の研究で、6時間未満の短時間睡眠はAD発症の予測因子になりうることが判明しました。

Annals of neurology. 2020 Sep 20; doi: 10.1002/ana.25910.

背景と方法

 最近の認知症研究で、不眠症や睡眠時無呼吸症候群とアルツハイマー病(AD)の間に関連性があることが明らかになりました。睡眠障害はAD患者で多く見られ、高齢者におけるADの危険因子とも言われています。しかし睡眠時間とADの関係についてはまだ議論の余地があります。睡眠時間が短い場合も長い場合も認知機能障害のリスクに関連しているとの報告があります。しかし複数の因子が関連する認知症では従来の観察研究を用いることは負担が大きく困難です。今回、メンデルランダム化解析を用いて、アルツハイマー病リスクの高い遺伝的背景のある群で、初期ADが睡眠持続時間に影響を与える可能性があるという仮説を検証しました。また、この影響が年齢、性およびAPOEε4(ADのリスク因子と判明している遺伝子)有無の状態によって異なるかを検討しました。

 今回、50万人以上登録されている「UKバイオバンク」から、ヨーロッパ人の遺伝的素因を持ち、遺伝情報と睡眠時間のデータが完全で、初期評価時に認知症のない406,536人の登録者を対象としました。平均睡眠時間は質問票から短い睡眠時間(6時間未満)、平均的な睡眠時間(6~9時間)、長い睡眠時間(10時間以上)に分類しました。AD遺伝的リスクスコア(GRS)は、2013年 International Genomics of Alzheimer’s Projectでメタ解析されたAPOEε4遺伝子多型を含むアルツハイマー病に関連が高い23の遺伝子座を用いました。メンデルランダム化解析(MR)を用いて、睡眠時間とアルツハイマー病との関係を評価しました。

結果

 患者背景は以下の表の通りです。

患者背景平均(SD)あるいはN(%)
平均年齢(39-73歳)56.9 (8.0)
女性219,573(54.0)
AD-GRS0.11(0.40)
AD-GRS (APOEなし)-0.07(0.17)
フォロー中認知症と診断された数2,004(<1)
APOEε4 allele 
0289,329(71.2)
1107,411(26.4)
29,796(2.4)
睡眠時間 
短時間(<6時間)96,849(23.8)
平均(6~9時間)302,493(74.4)
長時間(>10時間)7,194(1.8)
患者背景

 平均年齢は56.9±8.0歳、男女比に偏りはありません。参加者の平均睡眠時間は7.2時間(SD=1.1)で、平均AD-GRSは0.11(SD=0.40)でした(範囲:-1.15~1.85)。

 結果あAD-GRSスコアが高いほど睡眠時間が短い(b=-0.014, 95%CI: -0.022, -0.006)結果で、年齢で層別化すると、55歳以上で有意差を認めました(b=-0.023, 95%CI:-0.033, -0.012)。性別による差はみられませんでした。

睡眠時間39-54歳(148,796人) β(95% CI)55-73歳(257,740人) β(95% CI)
全体0.000(-0.013, 0.0013)-0.023(-0.033, -0.012)
 OR (95% CI)OR (95% CI)
短時間睡眠0.991(0.96 2, 1.021)1.025(1.002, 1.049)
平均睡眠ReferenceReference
長時間睡眠0.962(0.863, 1.074)0.969(0.902, 1.041)
AD-GRSと睡眠時間の関係

 APOE ε4対立遺伝子群では、高齢参加者の睡眠時間の短縮と関連してました(1対立遺伝子b=0.02(95%CI:-0.03, -0.01)、2対立遺伝子b=0.04(-0.07, -0.02))。APOEε4を含まない群でもAPOE ε4群よりやや弱いですが同様の傾向を示しました。睡眠状態の結果はAPOE ε4対立遺伝子の有無で差はありませんでした。55歳以上の初期ADでは1.87時間(b=1.87、95%CI:-2.78, -0.96)の睡眠時間の短縮を認めました。睡眠評価から3年以内の認知症診断を除外しても同様の結果でした(b=2.11、95%CI:-2.7, -0.96)。

考察

 筆者は、ベースラインで認知症のない中高年の大規模サンプルにおいて、AD-GRSの高値が睡眠時間の短縮と関連していることを発見しました。これは55歳以上でのみ観察され、性差は認められませんでした。AD-GRSを操作変数として用いたところ、認知症と診断された55-73歳の参加者は、認知症と診断されていない人に比べて、ベースライン時の睡眠時間が2時間近く短くなっていました。今回の結果は、ADの遺伝的リスクが認知症発症前の睡眠時間に影響を与えるという仮説を支持しました。長時間睡眠については、過去の観察研究で認知症と関連するという報告がありましたが、今回のメンデルランダム化解析では、高齢者の短時間睡眠のみがアルツハイマー病の遺伝的リスクになることを示しました。ADに関連した病理変化が高齢者の睡眠時間の短縮を引き起こすのか、あるいはADに高い関連を持つ遺伝子が睡眠時間に直接影響し、神経変性を起こしているのかについては今後の研究が必要です。

 APOEε4対立遺伝子は単独で睡眠時間の短縮と関連していましたが、今回筆者はAD-GRSを使用することで睡眠時間により強く影響していることを発見しました。睡眠とAD研究における重要な課題の一つは、症状出現前のADが睡眠障害を引き起こすのかを決定することです。今回筆者はAD-GRSを用いることで、この課題を解決し臨床症状出現前のADが短時間睡眠であることを発見しました。 本研究はいくつかの限界もあります。報告された睡眠時間は、初期の認知機能障害や抑うつ症状によって偏っている可能性があり、これはAD-GRSが高い人に起こりやすい因子かもしれません。しかし、高AD-GRSの人はベースラインでは一般的に認知機能的に正常かつ健康であり、追跡調査で認知症を発症した人はほとんどいないことが指摘されています。AD-GRSはADのリスクの一部を説明しているに過ぎず、関連性を検出する能力に限界があるかもしれません。また、AD-GRSの多面的効果の可能性も排除できません。本研究は、睡眠時間とADの繋がりの方向性や性質を明らかにするのに役立つと考えます。これらの知見を確立するためには今後更なる研究が必要ですが、6時間未満の短時間睡眠はAD発症の予測因子になる可能性があると結論づけました。