認知症でみられる焦燥性興奮(agitation)の特徴と対応法まとめ

焦燥

 焦燥性興奮(agitation)は不安やイライラ感が高じて興奮状態になる、攻撃的になります。認知症者で頻度が高く、介護者が対応に苦慮する上位の行動・心理症状(BPSD)です。焦燥性興奮の対応が遅れる、不適切な対応になると、徘徊・暴言・暴力・介護拒否などのより強い精神症状に発展することがあります。早期に焦燥の徴候を発見し適切に対応することが必要です。以下の総説などを参考に焦燥性興奮の特徴と治療をまとめました。

Front. Pharmacol. 11:1168. doi: 10.3389/fphar.2020.01168

焦燥性興奮のまとめ

認知症者の焦燥性興奮の経過

 物忘れなどの認知機能障害→不安・焦燥感→自分・他者への苛立ち→易刺激性→攻撃性(暴言・暴力)、焦燥性興奮、徘徊、幻覚、妄想、うつ、心気症状

焦燥性興奮の原因

  • 身体的要因:疼痛・しびれ感・痒み・むずむず感などの身体的不快感
  • 薬剤的要因:抗うつ薬の賦活症候群(SSRI投与初期)、向精神薬によるセロトニン症候群、アカシジア(静止困難)、ベンゾジアゼピン系薬剤の急な中断など
  • 精神的要因:認知機能低下の病識による不安感、失敗に対する恐怖感、老化・死への恐怖感、抑うつ状態
  • 環境的要因:社会との関わりが減ったことによる孤独感、隔絶感

非薬物的介入

 まずは非薬物的介入から始める。パーソンセンタードケア(認知症者の行動や状態をその人の視点や立場に立って理解しケアを行う)を心がける。本人から話をしっかり聞き、不安・焦燥の原因を探る。認知症患者が不安を感じている場合、「ちゃんと見ているので心配は不要です」「代わりにやっておくから心配しないで」「家のことは家族が対応しているので大丈夫です」と声をかけることで不安を軽減できることがある。

  • 環境調整:室温・照度の調整・騒音除去
  • 音楽療法:本人の好きな音楽を流す
  • バリデーション療法:傾聴、分かりやすい言葉・文章で接し、安心感を与える
  • 身体的不安改善:マッサージなどで身体的苦痛を軽減させる

薬物的介入

・非薬物的介入で症状軽減しない、焦燥性興奮が強いときに開始する。

  1. リスペリドン(リスパダール®)から試す
  2. アリピプラゾール(エビリファイ®)またはクエチアピン(セロクエル®)
  3. カルバマゼピン(テグレトール®)

・興奮・攻撃性が低く、不安が強い時

  1. 抑肝散:不安に対して効果があると報告されている。副作用が少ないため第一選択として使用できる。ただし効果は弱い。
  2. トラゾドン(レスリン®):抗うつ薬でふらつきなどの副作用が少ない。
  3. SSRIセルトラリン(ジェイゾロフト®)エスシタロプラム(レクサプロ®)

 バルプロ酸(デパケン®)は焦燥性興奮に効果がなかったという報告あり。アルツハイマー型認知症ではドネペジル(アリセプト®)、メマンチン(メマリー®)が不安に有効であった報告がある。チアプリド(グラマリール®)は脳梗塞後遺症の攻撃性、興奮に保険適応がある。

焦燥性興奮の定義

 焦燥はイライラして落ち着かない状態を指します。「agitation」は日本語訳では「焦燥」となり攻撃的な言動が含まれていませんが、欧米では「欲求や困惑から生じた結果とは考えがたい不適切な言動」と定義され、攻撃的な言動も含まれています。「認知症疾患診療ガイドライン2017」では「agitation」を「焦燥性興奮」と記載しています。本記事でも「agitation」を焦燥性興奮として扱います。 認知症者は物忘れなどの認知機能障害により不安・焦燥感が出現します。常に自分自身あるいは他者にイライラした気持ちを持ち続け、些細なことで不機嫌になる易刺激性(irritability)を起こします。この状態で不安感が解消されない、周囲から不適切な対応をとられると、暴言・暴力などの攻撃性、焦燥性興奮(agitation)に発展します。更に徘徊・介護者への抵抗・幻覚・妄想・うつ・心気症状を発症することがあります。

焦燥性興奮(agitation)の総説

 焦燥性興奮はアルツハイマー型認知症患者によくみられる問題ですが、他のタイプの認知症でも起こりえます。非薬物的介入が第一選択ですが、効果は限定的であることが多いです。このことは、認知症の焦燥性興奮の治療に様々な精神薬が用いられている理由を説明しています。これらには、定型抗精神病薬(プロマジン)と非定型抗精神病薬、抗うつ薬、抗けいれん薬、抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン)、漢方薬などがあります。これらの多くは、認知症患者に対する有効性や安全性に関するデータが十分でない、あるいは全くないため、適応外の向精神薬であり、伝統や医師の個人的な意見に基づいて処方されています。最も心配なのは、その使用には重篤な副作用(SAE)を伴う可能性があることです。例えば、最近のコクランメタアナリシスでは、「器質性脳障害」に広く使用されているバルプロ酸製剤は、認知症患者の焦燥性興奮(agitation)の治療には効果がないと報告されています。バルプロ酸製剤は、重篤な有害事象の割合が高く、バルプロ酸塩は認知症患者の焦燥性興奮の管理には推奨できません。

 認知症患者の焦燥性興奮や精神障害に対する抗うつ薬の有効性については、これまでほとんどの論文が発表されていません。コクランのメタアナリシスでは、2つの研究でシタロプラム(日本未発売)とセルトラリン(ジェイゾロフト®)がプラセボと比較して焦燥性興奮の軽減に効果的であると結論づけています。また、SSRIとトラゾドンは、定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬を比較した場合、忍容性が良好であることが示されました。さらに、抗うつ薬と定型・非定型抗精神病薬との間では、有効性の点で差は認められませんでした。

 認知症における焦燥性興奮の最も効果的で受容可能な治療法を決定するために行われたRCTの最近のシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、焦燥緩和のために広く使用されているにもかかわらず、ハロペリドールはプラセボと比較してほとんど有効性を示さなかったことが分かりました。さらに、デキストロメトルファン/キニジン(ニューデクスタ®)およびリスペリドン(リスパダール®)は、集団での解析ではSSRIと同様にプラセボよりも有意に有効でしたが、個別に分析した場合には有効ではありませんでした。

 さらに、アルツハイマー型認知症における焦燥性興奮の治療に関するいくつかの完了したランダム化比較試験(RCT)が最近発表されています。薬物の有効性、副作用、入手可能性、新規薬剤登録手続きに関する利用可能なデータを考慮すると、シタロプラム(日本未発売)は、ADにおける焦燥感のコントロールにおいて、多くの医師にとって最も賢明な選択肢である可能性があるように思われます。しかし、完全な反応を得るのに治療期間は少なくとも9週間必要です。ADまたは混合型認知症に伴う焦燥性興奮と攻撃性に対する薬物的介入の代替アルゴリズムがDaviesら(2018)によって提案されました。筆者らは、リスペリドンで治療を開始し、次にアリピプラゾール(エビリファイ®)またはクエチアピン(セロクエル®)、続いてカルバマゼピン(テグレトール®)、そしてシタロプラムで治療を開始することを推奨しています。シタロプラムを処方する場合には、QTc延長のリスクが上昇することに注意することが重要であり、これは老年期の患者では問題となりえます。

 認知症の焦燥性興奮を治療する代替方法として、電気痙攣療法(ECT)があります。認知症の焦燥性興奮を治療するためのECTの使用を調査した最近の論文のレビューでは、11の論文が確認され、216人の患者が参加しています。これらの研究は認知症患者の焦燥性興奮の減少に有望な結果を示していますが、研究の種類、向精神薬の使用、尺度の選択、対照群の欠如、患者の数など、多くの方法論的限界がありました。

以下の記事も参考にしてください

焦燥性興奮と攻撃性のUp To Dateまとめ

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